「ダンデくんは何も分かってない!」
こちらを見つめる彼女の瞳は涙で潤んでいて、その表情は今まで見たことがないほど怒りに満ちている。なぜこんなことになってしまったんだろう。
ダンデには彼女を怒らせる気など全くなかった。むしろその逆で喜んで欲しかったのだ。それがどこをどう間違ったのか分からないままに怒らせてしまった。
しかしながら悪気がなかったとはいえ、ダンデが彼女の地雷を踏み抜いてしまったのは事実だ。それは素直に認めるしかない。
彼女の怒りを早急に収めるためにもダンデは即座に頭を下げることを選んだ。
そもそもの始まりはダンデがたまたま彼女のスマホの画面を見てしまったことにある。
無造作にテーブルに放置されたスマホはスリープする前で直前まで彼女が見ていた画面を映し出したままだった。見るつもりはなかった。しかしテーブルに何かあるなと視線を向けた時にバッチリ画面を見てしまったのだ。
そこに映るのはダンデの姿だった。しかも記憶に懐かしいチャンピオンのユニフォームを着た姿だ。ダンデがチャンピオンから退いてひさしく、自分でも久しぶりにあの赤いマントを見た。
チャンピオンを交代した時点であのユニフォームはクローゼットの奥にしまい込まれ滅多に日の目を浴びることはない。イベントでやむおえず着ることはあるが新たに写真を撮影することはなかった。つまり彼女は過去のものを大事に見返していたことになる。
彼女がダンデと付き合う以前からファンだったとは聞いていたが、実際にその様子を見ることはなかったので何だか面映ゆい。恋人として愛情を向けてくれていることは十分に理解してはいるけれども、ファンとして向けられるそれはまた違った嬉しさがあった。
正直に言おう。ダンデは調子に乗っていた。だからこそ彼女へのファンサービスで懐かしいユニフォームを着ようなどと思ったのだ。あわよくば夜のチャンピオンタイム〜復刻版〜もありえると予測していた。そして、そんな下心増し増しな心構えがいけなかった。
彼女は謝るダンデに私じゃなくてチャンピオンダンデに謝ってと怒り狂った。チャンピオンダンデもダンデなのでは、と思ったが指摘できるような空気ではない。彼女に従い、なぜか昔の自分自身に謝った。
しかし、それだけでは彼女の怒りは収まらず今度はそのユニフォームを脱げと言い出す。一応、現役時代にダンデが使っていたものなのでダンデが着ていてもおかしくはないのだが今の彼女には関係ない。彼女にとってダンデは自分の欲のためにチャンピオンユニフォームを着たニセモノなのだから。
ユニフォームを脱いでパンイチになったダンデは床に落ちたそれを丁寧に畳む彼女をながめる。ダンデは彼女の恋人であり彼女の推しであるのだが、この扱いはあんまりではないだろうか。正直、彼女が怒り始めてから百回ほどはそう思った。
「もう二度とこんなことしないで」
思考が顔に出ていたのか彼女がこちらをキッと睨みつけて言う。ダンデは誠意を見せるため、その場にパンイチで正座した。
そこからは彼女の独壇場だった。怒涛のダンデ語りが始まり、いかに自分がダンデを推しているかを述べ、ダンデの行為が許せなかったかを説明した。途中からダンデは自分自身がダンデであったかどうか見失うほどにボロボロに否定された。
彼女の言うことをダンデは一ミリも理解できなかったが神妙な顔で聞いていた。数十分にわたるお説教の末に彼女は肩で息をしながらダンデに分かったかと問いかけてくる。ダンデは重々しく頷いた。
「キミにも“ダンデ”にもすまないことをした。申し訳ない」
自分でも何を言っているのか分からなかったが、彼女にとっては正解だったようでようやく彼女の表情が緩んだ。良かった、と心の底から思う。こんな馬鹿馬鹿しい話で喧嘩なんてしたらダンデはしばらく立ち直れないだろう。
さて機嫌も直ったしそろそろ服でも着ないと風邪を引くと立ち上がると彼女に腕を掴まれる。
「私も言いすぎた。ごめん……あと服脱がせちゃったのもごめんね。寒かったよね」
こちらを見上げる彼女の頬は赤く染まっていた。先ほどは勢いでダンデをひん剥いたのだろうが、彼女は元来恥ずかしがり屋だ。長年のバトルで培ってきた勘が、今がチャンスだと告げていた。
「そうだな、キミが温めてくれないか?」
チャンピオンタイムこそ流れてしまったが、ダンデはイチャイチャタイムを手に入れた。