道のりは長い。

 私の心を強く焦がす赤色の瞳をもつ男の人に誘われて、彼のおうちにお世話になることになった。

 ……いやなんでだ! 確かにお母さんはいないしここがどこだかもわかんないけど、だからってどうして私は見ず知らずの男の人に手を引かれてるの!?
 恐る恐る見上げると、整った顔立ちの中でひときわ光る赤い瞳。ちらりと目が合って、慌てて反らした。うん、だって、ねぇ、一応14歳なのに子どもみたいに手を引かれちゃってるし……。しかも、そう、この人も大きいんだよね。男の人……えっとZANXAS……ZANXU……難しいな……XANZ……、……ザンザスさんが落ちてきたときの驚きのせいで忘れちゃってたけど、ここ、たぶん巨人の国だ。

 ザンザスさんはずいぶんと丈夫な人のようで、あの高さから落ちてきたわりにピンピンしている。ピシッと着こなしたスーツの奥の白いシャツがところどころ赤黒い気がしたけど……き、気のせいだよね! ね! お顔の傷もね! きっとなんかの事故だよね!
 それよりも。ザンザスさんは、日本語で会話をしてくれている。でも、どう見ても日本人じゃない。相変わらず周囲の言葉は理解できないし……。

 「ざんざしゅさんのおうち、大きいの?」
 噛んだのなんて気づかないふりだ。ザンザスさんも微妙な顔をしながらもスルーしてくれた。
 「……ああ、ファミリー……か、家族みたいな奴等と住んでるからな」
 「かぞく!」
 すごい、ザンザスさんのおうちは大家族なんだな。私のうちはお母さんとの二人暮らしで……う、うう、お母さん……。離れる前は邪険に扱ったりしてたけど、いまはこんなにもお母さんが恋しい。思わず泣きそうになって、ザンザスさんの手を握る右手に力がこもった。


 ・ ・ ・


 えっ……と、あの、ず、随分、歩いたと思うん、です……が……!
 もはやザンザスさんに引っ張ってもらってるといってもいいぐらいに体重を右に預けて、ぜいぜい言いながら足を進めつづける。なんっ……だって、……これ、歩いて帰る距離じゃない……! ざ、ザンザスさんの健康野郎め!
 心の中で恩人であるザンザスさんに罵声を浴びせながら、ただただ足を進める。もはやそこに意思などない。
 ……ハッ。もしや、巨人族のザンザスさんにとってはこんな距離なんてことないのかな。

 なんて心の中で自分を誤魔化すこともできないレベルで疲れた。立ち止まった私を心配するようにザンザスさんも立ち止まった。ゼエゼエと肩で息をする私を見て、しばらく不思議そうな顔をしていたが、ようやく何か思い当ったらしく、一人でウンウンと頷いたあと、ひょいっと……、え?

 「お前の足だと日が暮れる」
 「ひょっ」
 お姫様抱っこー!? 慌ててバタバタと手足を動かしたが、ザンザスさんに落ちるぞ、と諭されておとなしくなる。ま、待ってください、い、いくら種族が違うとしても(ザンザスさんが巨人族で、私がちっちゃいもの族だとしても!)、男女ですし、あの、初対面の、男性に、あの、あの……。私の心の中の抗議もなんのその、ザンザスさんは長い足でズンズン進んでいく。……た、確かにザンザスさんの一歩はわたしの五歩ぐらいあるぞ……。それに、ザンザスさんの腕のなかあったかくて、楽ちんで……、……、……。

 ぐう。