Lunga strada da percorrere


 そういえば、こいつはまだ小さいガキだった。腕の中でグンと重さを増した塊を抱えながら、独りごちた。何故腕を引っ張るのか、何故すぐに息を切らすのか理解できなかったが、答えは簡単だ。歩幅が小さいから、オレの速度についてこれない。こんなことになるなら、車でも用意しておくんだったな。心の中にガキを思いやる気持ちがあることに薄ら寒い思いをしながら、そっと腕に力を込めた。ふわふわ、ふにゃふにゃ。そんな効果音が似合うような、ありったけの力を込めればすぐに潰えてしまうような。不安定なそのぬくもりが、妙に懐かしいような思いを湧き上がらせた。
 ……オレのことを、随分と信用してしまったらしい。やわらかな黒髪がさらさらと風に揺れる。抱き上げられてからすぐに閉じてしまった瞼の先を飾るまつ毛は、きめ細かく並んでいた。眠っていても相変わらずやわらかそうな頬は、先ほどよりも赤みを増していた。ガキの顔をまじまじと見ながら腕のぬくもりを感じていると、らしくもなく、心の底が痒くなるような気持ちが浮かんできたが、それには気付かないフリをした。

 オレは、コイツを騙している。安心しきった顔で寝こけるガキには、きっとオレよりもあのガキどものような優しい奴らが似合うんだろう。まさか、これから連れていかれる先が暗殺部隊の屋敷だなんて思っていない。一人で路頭に迷うのと、マフィアの事情に巻き込まれるのと、一体どちらがましだと言うのだろうか。止まっていた足を、動かし始めた。なんとかなるだろう。なにも、マフィアに入ってほしいわけでも、VARIAのメンバーが足りないわけでもない。ならば何故連れて帰るのか。きっと、その答えはコイツが自分で見つけるのだろう。
 輝く茶色がかった黒い目が次に開くのは、きっと、屋敷の中だ。

 そのとき、瞳の奥にはどんな感情が現れるのだろうか。



 コイツの、……みゆの存在が、きっとオレに、オレたちに、なにか新しいモノを運んできてくれるだろう。