光は昔、泣き虫な子どもだった。
こけて泣いて、喧嘩して泣いて、絵本を読んで泣いて。
泣き虫なのに気が強い子だったから、喧嘩して泣くのが一番多かったと思う。
泣いたときは、いつもわたしを呼んだ。加奈ちゃん、て涙でぐちゃぐちゃになりながら駆け寄る光が好きだった。女に庇われてる、なんて言われたりしてもっと泣いちゃったりしたけど。
それでも光はいつもわたしを頼ったし、わたしも頼られて嬉しかった。なにより、わたしが相手を追い払った後に見せる笑顔が好きだった。
「加奈ちゃん」
「どしたん、光くん」
「加奈ちゃんが泣いたときは、ぼくが守ったるよ」
「ありがとう」
なんて言いながら、わたしはそんな日はこないと思っていた。
わたしの中で、泣くのはいつも光だったし、それを守るのはわたしだったからだ。
…なんて、幼稚園のころの話。中学生になったわたしたちは、随分と疎遠になってしまった。
たまに廊下で見かけるけれど、大抵はテニス部の先輩たちに囲まれているか、一人で曲を聞いている。友達は多いようで、友達と話しているのもよく見る。
よかった。よかった。
光は泣き虫だから、誰か守ってあげる人が居なきゃ。…それが、わたしじゃなくなっただけの話で。
わたし自身では光とはもうほとんど他人のようなものだと思っているけれど、周りの人はそうは思わないらしい。
「光くんの幼なじみやからって調子のんなや」
「光くんも困っとるわ!」
そんなこと言われても。関わってもいないのに、困るわけがない。
「ええ加減にせえよ、今日という今日は後悔させてやる」
殴られるのは初めてだった。痛くて痛くて、涙が出そうになった。それでもそれを飲み込んで、わたしはただ堪えた。
光を守るのはわたしだから。わたしが泣いてどうするの。
涙を堪えるのに必死だから、足音に気づかなかった。
「何しょんねん、お前ら」
「ひっ、光くん!?」
周りの女の子が慌ててどけたらしい。痛みがやんだ。それから、ごちゃごちゃ言い訳をする声がした。
「早よ去ねや」
女の子たちは、慌てて逃げていった。
ゆっくりと体を起こして、光を見た。久しぶりに近くで見る光は、随分大きく見える。
「泣いたときは、守ったるって言うたやろ」
目尻に溜まったわたしの涙を指先で拭った光の手の大きさが、記憶の光とは随分違うことに気づいて、わたしはまた泣きそうになった。