沢田くんが外国にいってしまって、3年がたった。特別仲がよかったひとたちを一緒に連れていったということを聞いて、少しだけ心が痛んだのを、いまでも覚えている。
わたしと沢田くんは小学校のときからずっと同じクラスだった。わたしは運命だ、なんてどきどきしていたけれど、沢田くんはたぶん、……絶対、そうは思っていなかった。彼は、中学校で出会ったきょーこちゃんに夢中だったから。
思えば、彼は、中学校でずいぶん明るくなった。小学校のときなら避けていただろう獄寺くんと仲良くするようになったし、時々あの雲雀さんと話もしていた。そして、その代わりとでもいうように、わたしとの距離が段々開いていった。
一緒に帰ったことなんてないし、同じクラスだけど隣の席になったことはない。それでも、よく話していたし、仲がいいつもりだった。まあ、もしかしたら、それも気のせいだったのかもしれない。沢田くんにとっては、わたしなんて、クラスメイトの枠の真ん中にいる存在というだけだったのかも。
それでも、わたしにとって、彼は特別な存在であり、友達だった。わたしにとっては。
高校の卒業式は、生憎の空模様だった。体育館は蒸し暑くて、外からいやになるほどの雨音が聞こえていた。
わたしは、沢田くんのいない高校を卒業する。クラスメイトという枠からは外れたなぁ、ある意味……と負け惜しみのようなことを考えながら、ぼおっと祝辞を聞いていた。
大学は、地方にいくことに決めていた。
たぶん、もう沢田くんには会えない。
わたしは、あわれなことに、まだ沢田くんのことが好きだった。置いていかれたのに。彼の枠から、弾かれたのに。
卒業式が終わってすぐ、クラスメイトの男の子に話しかけられた。傘を忘れてしまったのだと言って笑う男の子に、朝から雨が降っていたのにどうやって忘れるんだと呆れて、それから、渋々一緒に帰ることにした。
男の子は、家の近くの猫の話、朝のニュースの話、昨日の晩御飯の話など、様々な話を、いかにも楽しそうに話してくれた。それを聞きながら、わたしは、次の話題ではわたしのことが出るのではないのか、どうせなら早めに言い出してはくれないか、と、ずっと考えていた。
沢田くんにとってわたしがそうであったように、この男の子も、わたしにとっては、ほんとうの、ただのクラスメイトなのである。
結局、何が原因かわからないが、彼は今日わたしに思いの丈をぶつけるのは諦めたようだった。先程までの雨が嘘のように晴れた空をみて、じゃあ、俺もうこっちだから、元気でな、と笑って、走っていってしまった。
「告白、されたの?」
あっという間に去ってしまった男の子の後ろ姿を呆然と見送ったあと、傘を閉じて、自分の家を目指そうとしたとき、後ろから声をかけられた。
「さ、わだくん」
懐かしいけど、ぜんぜん違う声だった。わたしは震える足を叱咤して、ぎこちなく振り返った。
沢田くんは、そのきれいな瞳の輝きを1段階増やして、そこに立っていた。
「さっきの。告白だったんじゃないの?」
「あ、うん、……いや、違ったみたい」
「そうなんだ」
目の前で笑う沢田くんの存在が信じられない。帰国したんだろうか。それにしても、帰国してすぐにただのクラスメイトになんて会いに来るだろうか。ましてや、そのクラスメイトが告白されたかどうかなんて気になるだろうか。いや、目の前でそんな光景が繰り広げられたら気にもなるか。
わたしは、ぐるぐると様々なことを考えながら、沢田くんの唇の動きを追った。
もしかしたら、クラスメイトの枠なんて、最初からなかったのかもしれない。そんな希望を抱きながら、沢田くんの言葉を待った。
はたして、来週のわたしは大学のためにアパートへ引っ越しているか、外国への飛行機の中か。
その未来は、まだ、誰にもわからない。