そんな言葉は聞きたくない
私は驚きを隠せなかった。『この命に替えても』このセリフが頭の中をぐるぐると回る。
まるで兄さんみたい。今回のことだって自己犠牲。それが、何を産むというのだろうか?
「そんなの、だめよ…!絶対にだめ」
口をついて出た言葉は、否定の意を示すものだった。ヒースはやっとこちらに視線を向け、私を見つめた。
「私を守るために、命を捨てるなんてしないで……お願いだから」
もうこれ以上、大切な人を失いたくない。いなくなったりしないで。私を置いて行かないで。ヒースが私を庇って死ぬなんて、そんなことあってはならない。私と違って彼の未来は明るい。そんな人の命を奪ってまで生きたって意味がない。
「…名前さん……」
「ヒース、約束して。無茶はしないと」
その約束には二つ返事で即答してくれた。私は安堵の気持ちと疲労から次第にうつらうつらし始め、再び横になり眠りについた。
「あなたを必ず幸せにする使命が俺にはありますから、死んでなどいられませんよね」
そう微笑んで名前の髪を梳くヒースの言葉は、夢の中の彼女には届かなかった。
「君は……?」
「だれ?あなたは、私の敵?」
「俺はロイド。誰かに追われているのか?」
「……ここから出して、お願い」
幽閉されていた女の子、それが名前。それについて彼女が隠していた秘密はあまりに大きすぎて衝撃的すぎて、親父にもライナスにも初めは打ち明けることが出来なかったが、自分の過去を知った名前がそれを伝えてほしいと願った。
どうして、なぜ彼女がこんな運命に逢わなければならないのだろう。こんなことを考えるのは日常茶飯事で、無邪気に笑う名前を見る度に思った。
「ロイド兄さん、」
しかし、そう俺の名を呼ぶ彼女を見ていたら、そんな考えを口に出すことなんて出来なかった。
「兄さんは、ずっと私の味方でいてくれる…?」
不意に弱気な言葉が彼女の口から飛び出してきたと思えば、当の本人は柔らかな笑みを浮かべて夜空を眺めていた。
「当たり前だろう。俺もライナスも、親父もそうに決まってる」
「でも、ずっと側にはいられない。それは絶対に、変わらない運命…。ごめんなさい、兄さん。変な質問をして」
そんなことはない、と直ぐにでも言ってやりたかった。孤独を一人で抱え込む妹の辛さを背負いたかった。でも、それは叶わないことで。
「……名前、それでもお前は俺達の妹だ。それもまた、絶対だ」
「兄、さん…」
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