赤い騎士と蒼い策略





朝になり、次の戦いに向け進撃準備と作戦会議が行われた。エリウッドとヘクトル、リンはベルン王宮へ忍び込むつもりらしい。私はそれを最後まで嫌がったが、それしかないとヘクトルとリンに主張された。なんだか二人とも楽しそうだね、とエリウッドに言われたがまことにその通りである。

ヘレーネ王妃の助言を元にファイアーエムブレムを手に入れるべく山道を越え、地形により警備の薄い王宮へと入った。そこで、ゼフィール王子とデズモンド王、ソーニャらの会話の一部始終を聞いてベルン王が黒い牙と通じていることを知ることになった。

エリウッドやヘクトルたちはずいぶんと驚いていたが、私にはさほど衝撃がなかった。ネルガルが手段を選ばない人物ということくらいの知識はある。大国ベルンを動かして自らの計画が成しえるのなら、その手を使わないわけがないと思っていた。

(ゼフィール、王子)

何が嫌な予感が私の背中をなぞった。ここでは被害者のはずだ。なぜ、彼の存在が私に危険を知らせるのだろうか。今はまだ、その理由はわからなかった。

私たちが城から出ると、ニルスが竜騎士に追われていた。
マズイ、と思った矢先リンが敵の気を反らしてくれた。向こうはどうやら私たちに会いたかったようだ。しかも彼女はネルガルの支配下にあるというより、心底ベルン王家に仕えているようだ。ベルンといえば……彼の知り合いだろうか?

戦いにはパント様とルイーズ様も参加されるようだった。彼らの腕前はよく知っているので心配はなかったが、ニルスの占いからするとどうやら早く皆と合流した方が良さそうだった。

敵を倒しながら、私は先ほどの女竜騎士のことを考えた。どうやらあの人の武器には強化した魔法がかかっている。いや、あの人自身にかかっているのか。
しかし、なぜベルン王家に仕える彼女がニルスを狙うのかがわからなかった。もちろん、ベルン王デズモンドがエムブレムを守るよう命令を下しているということは検討が付いたが、その命に疑問は感じないのだろうか。

(兄さんと同じ、ね)

ソーニャを良く思わないものの私たちと敵対する兄さん。それは今の彼女の同じだった。自分に思い込ませて、自分の信じる人の命にただ従う。

(そんなの、モルフと変わらない)

この考えは、自らの兄さんをモルフだと言っていることになることくらいわかっていた。だが、兄さんが間違っていることは確かだ。どうにか、彼女だけでも救わなくてはならない。そう、人間の彼女は必ず。

「ヒース、」
「ええ、聞きたいことはわかっています。あの方はヴァイダ隊長で……ベルン屈指の竜騎士です」

やはりそうか。私は自分の見当に満足した。そして、決して攻撃してはならないという旨をヒースに伝えると、彼の眉間に少々皺が刻まれ、怪訝な表情を呈した。自らの上司を攻撃したいのか、とも考えたがおそらく違う。彼は私の見解にそういう表情を見せたのであろう。

「なぜ、ですか」
「彼女は…きっと仲間になってくれると思うから」

ネルガルはベルン国王とて用無しと考えれば暗殺命令を下すだろう。そのことを伝えれば、彼女が私たちの仲間になる可能性がある、これが私なりの結論だった。

「……わかりました」

それ以上は何も言わず、ヒースは村を救うべく南下していった。

敵主将は自ら攻撃してくる気配がなく、私たちは幾多の竜騎士の増援にも耐え、敵の撤退を待った。

「このあたしを、ここまで手こずらせるなんて…!全員引き上げるよ!地上部隊!遅れずついてきな!」

敵の撤退命令が下り、死者なく持ち堪えることができた。だが、私はヒースが村から持ち帰ったハマーンの杖の話で不可解なことを聞いた。

「ハマーンの杖……珍しいものをくれたのね。どんな方が下さったの?村長さん?」
「村人ではないようだったな…。上品な風貌の女性で、顔立ちもベルンのものではなかった」
「上品な女性………髪は?長かった?」
「いや、短かったな。確か、ヘクトル殿より薄い蒼い髪で…」

ヒースの言う特徴からしてハマーンを渡したのは、黒い牙の 蒼鴉 ウルスラに間違いないのだが、彼女が私たちにアイテムを渡した理由がわからない。


「あの女はいつも何考えてんのかわからんからな。まあ、女竜騎士のことが気に食わなかったとかじゃないか?」

ラガルトは淡々と無表情で興味のないように言った。ウルスラはソーニャが連れてきたらしいので、私はウルスラと黒い牙としての面識はない。そして、どうやらラガルトとの相性は悪いようだった。噂によればソーニャの腹心で、非常に冷酷だとか。

彼女は人間なのに、ソーニャに付き従っているということに疑問を感じた。ウルスラのことを助けたいという気持ちも多少あったが、本心からネルガルやソーニャの力に魅せられてしまっていては説得するのは困難を極めそうだった。

「雰囲気からも冷血な女だってことを汲み取ることは出来たな」
「そう……」

ラガルトですら、ウルスラの考えていることがわからないと言うくらいなのだ。それ程、話し合うことは難しい相手ということだ。
今となっては兄さんが無理なら他の誰でもいいから救いたい、という気持ちが大きくなっている。黒い牙の同胞としての仲間が欲しいだけなのか、それとも別の理由なのか。自分の考えすらもはっきりとわからなかった。

「…名前、君は…何か重要なことを俺達に隠している…そんな気がする」
「…え……?」
「いや、俺の勘違いならいいんだ。すまない」

リムステラのことは誰にも言っていないし、まさか私の出生のことを差しているとでも言うのだろうか。しかしヒースの横顔を窺っても、そのことを知っている様子は見受けられなかった。

「……あなたが、私の何に対して疑念を持ったかはわからないけれど、これはまだ言えないことなの」

だから、お願い。これ以上私に関わらないで。私に関わったことで、あなたが辛い表情をするのは堪えられない。そういう思いで言った一言だったのに、彼はそれをわかっているのか否か、何も言わなかった。




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