嘘じゃないが、本当でもない





私がヒースのことを快く思っていることは自意識過剰ではないだろう。だが、彼に甘える訳にはいかなかった。それに慣れてしまえば私は昔の自分に戻ってしまう。兄さんに自分の道を任せっきりだった、あの頃に。

「私は変わりたいの」
「…?」
「だから、……!」

ヒースが私の肩を引き寄せた。
まるで、わかっているから何も言うなというように。彼は優しい。初めは兄さん達に良く似ていると思っていたが、こんなにも時を共にしていると、色んなところに差異があることに気付かされる。

「…ヒース?」
「ルセアさんにすら話せないことを、無理に聞き出すつもりはないし、君が黒い牙と戦う時にどんなことを考えているかもわからない。だが、忘れないで欲しい。俺は、君を……」
「それ以上は、言わないで」

私はヒースの言葉を遮った。戦場での約束は良くない。果たせられなかった時の悔しさ、悲しさがどうしても付き纏ってくる。
兄さんとの約束を頭の片隅で思い出しながら、何も言わなくても同じ思いさえ持っていればきっと、同じ道にたどり着くはず。そんな強い気持ちを抱いた。
それから私は抱き寄せられた肩から顔を上げて、彼にしっかりと向き直った。

「ありがとうヒース。あなたの気持ちは嬉しいわ。でも、私は大丈夫だから」

やんわりと、遠回しに話すことに否定的な意を示した。彼がわかってくれたかどうかは返事がないので不明だが、これ以上追究されることはなさそうだった。

「……君はそうやって、いつも他人の心配をして自分を大事にしないんだな…」
「そうね……そうかもしれない……だけど…」

そこまでで言葉を切った。回り出した歯車はもう止まれない。私は永遠を望まない。そのかわり、彼らの未来を――幸せな未来を――



(お前と会える時を、私は待つ)



そう、私は向き合わなければならないのだ。自らの過去と、未来と。
ヒースは私が沈黙している間も、ずっと側にいてくれた。彼になら全てを話しても良いかもしれない、そんなことを何度考えただろうか。しかし、そうはいかないのだ。私の過去には、私の手でけりをつけなければならない。

輝かしい明日に向かって、もう一度歩んで行くために。

目を閉じて、ゆっくりと深呼吸した。本来は立ち止まってなどいられないが、こうして休憩を挟まなければ気がおかしくなってきそうだった。

「…行こう。エリウッド殿達が心配する」
「そうね」

皆のいるところに戻り、ヒースと別れて私は自らの天幕へと入った。中で一息つこうとしていた矢先、先客がいた。しかし緊張する相手でもなく、私はあの話 をすることにした。

「ラガルト」
「何だ?」
「話、聞いてくれるかしら」

彼はこちらをちらりと見て先を促した。相変わらずのポーカーフェイスで、正直何を考えているかは不明だ。もちろん、私の天幕にいたということは私に用があったはずなのだが、彼が口を開く様子はなかった。

そんなラガルトに少し不審な気持ちを抱きながら、私は重い口を開いた。

「……リムステラを助けるために、あなたに手伝ってほしいの」
「ああ、いいぜ」

まさか二つ返事で了承されるとは思ってもいなかったので、素っ頓狂な声を出してしまい笑われ、続けざま彼が了承した理由を話してくれた。

「兄貴をやられたお前さんに、そんな頼みされて断る方がおかしいだろ?」
「それは……」
「俺自身、奴らに興味があるからってのも理由の一つだけど」

正直、最近はお前が善人と思う奴は全員が善人な気がしてきちまって、密偵としちゃ調子狂うけどな、とラガルトは鼻を鳴らした。返答に困っていると、そういえばと再び私に向き直った。

「あの竜騎士には言ったのか?」
「……言うつもりはないわ」
「俺は言うべきだと思うぜ。あいつは、名前が思ってるよりずっと強い人間だ。でなきゃベルン竜騎士が国家に反逆してまで戦うか?」

どうするかはお前さんの勝手だがな、とラガルトはひらひら手を振って天幕を出て行った。一人になって考えることといえば、ヒースのこと。

大した計画も決まっていない上、リムステラが私に心を開いてくれるのかさえも分からない。命の保証が全く出来ないのだ。彼女は理魔法使いのため、魔法の暴走は私が止められるが、それだけでは結論を出すことは出来ない。

ならばもう、あの人に頼るしかない。
私は決意を固めて天幕を出た。



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