雪の中感じる足音
朝、再び雪が降っていた。
この時点ではまだ視界も悪くなかったせいか、まさか天候が最も厄介な敵になるとは思ってもいなかった。
出撃準備を整えて、我々は進軍を開始した。
予想通り増援の敵は多く、遠距離魔法も厄介だったが何とか持ちこたえた。何度かラガルトにサンダーストームの矢が放たれて 危ない、と目を暝ろうかと思ったが間一髪当たらず、胸を撫で下ろした。
「お前さんは魔法に強いから俺の気持ちなんかわからねぇだろうな…」
「ええ、でも…」
「何だ?でも、ヒースが魔法に弱いから…か?」
「ラガルト!ここは戦場よ!ふざけないで!」
彼のことは置いておいて、再び雪が降り始めた時、一人のソードマスターが現れたとの情報が入った。宝物庫の近くからヘクトル達の後を追って外に出ると、一段とその寒さが増していた。
「寒っ…」
もちろん、厚着はしてきているのだが如何せん私は戦っていないので体を動かすことがなく、全く暖まることがない。必死に彼らに付いて行ったは良いものの、帰り道には体がすっかり冷えきっていた。もうすぐ建物に入れる、というところでタイミング悪く、一旦弱まっていた雪が強くなってしまった。
「名前!大丈夫か?」
「ヒース……ごめんなさい、迷惑をかけて…」
「それよりも、君に体調を壊されたら困る」
単に私を心配してくれているの?
それとも、私が軍師だから困るの?
防具を身にまとったヒースに身を預けながら、こんなことを考えていた。戦場だから、とラガルトに言ったばかりなのにそんな自分も彼と同じじゃないか、と苦笑した。下らないことだということは自分でも認知している。それでも、こんなにも黒い牙との対戦が混んでくると精神的にも不安定になってきて、彼の気持ちにも疑念を抱かざるを得なかった。
私達が玉座のある部屋に近づいて気付いたのだが、いつの間にか敵はケネスだけになっていた。どうやら他の敵は全て皆が片付けてくれたようだ。
「ケネス」
「ほう…あなたは噂の、あの兄弟の妹」
「知っているのね」
「ええ、それは勿論」
彼は相変わらずの癪に触る話し方で私に言った。その事実を知っているなら、もう兄さんが私を庇う理由はない。そして、私も黒い牙の制裁を受ける存在に値する。そうなればもはや事の真相を聞き出すべくケネスに問いただすことにした。
「では制裁の対象なのでしょう?なのになぜ誰も送り込んでこないの?」
「さあ…?私が知っているのは、リーダス兄弟が貴女の全てを肩代わりしたということだけですよ」
「兄さんが…」
「貴女がどう足掻いても彼らには死あるのみ。だから、貴女は先にあの世で敬愛する兄を待っているべきでは?」
闇魔法は光魔法に三すくみで弱い上、ケネスはアルジローレを装備していた。しかし何故か私には大したダメージもなく、かすり傷程度で向こうも酷く驚いたようだ。
「ごめんなさい。私に魔法は通用しないの」
(やはりこの人は、ネルガルの力に魅入られて闇に堕ちた聖職者ね)
そんなこと思いながらケネスを一瞥し、私は玉座から立ち去った。後を仲間に任せたので誰が彼を倒したのかは知らないが、ヘクトルが持ち帰ったアルジローレを見てその事実を確認した。
ケネスを倒して手に入れたファイアーエムブレムを返すため、私達はベルンの離宮へと向かった。ベルンに向かう間、私は様々なことを頭の中で整理することにした。黒い牙のこと、自分のこと、彼らのこと。考えれば考えるほど複雑で、段々と頭が混乱してしまった。
「……はあ…」
「どうしたよ、ため息なんか吐いて」
「あなただって、平気でいられるわけがないでしょう?どうしてそんな飄々としていられるの」
「俺が辛気臭い顔したら、誰かさんが心配するだろ?」
お前の代わりに俺が気丈に振る舞ってやってる、とでも言いたいのだろうか。そんなことお願いしていないし、されていない。ラガルトだって辛い時は辛いはずなのに、なぜそれを見せてくれないの?私がそんなに頼りない?
「ほら、そんな顔するなよ」
「……」
「お前に何かあったら、俺がロイドにぶっ殺されるんだって……勘弁してくれよ」
「ラガルト……」
辺りが暗くなってきたのを見てラガルトはこういう時こそ俺の出番だな、とひらひら手を振って先に行ってしまった。
残された私は、ふと紫色の空を見上げた。もうじき夜が来る。兄さん達との思い出がたくさん詰まった夜空、星空。
「何かあったんですかね…」
「…ウィル?」
「どうやら前方でエリウッド様達が立ち往生してるようですよ。名前さんは行かなくて良いんですか?」
「そうね……ありがとう」
ぼんやりしているように見えただろうか。ウィルの呼び掛けで彼らの元へ行くと、遅いとヘクトルに喝を喰らった。
どうしたものかと聞くと、どうやら宮殿の明かりが消えていて、中から戦いの音がするらしい。私達はすぐさま戦線に参加し、ゼ[_FS_AU_SEP_]フィール王子の救出を急ぐことにした。
「城の内部が分からないわね…」
「これじゃ偵察を出そうにも出せないな」
「名前、どうする?」
「…部隊を二つに分けて進軍する。そののち王子の部屋で合流すれば良いわ」
相手はウルスラ。一筋縄ではいかない相手だ。恐らく遠距離魔法も使用してくるだろう。ラガルトは出撃する気満々のようだが、注意が必要だ。敵もどう出てくるかわからない。全てが未知で、私は仲間を失うのではないかという恐怖に陥りそうになった。
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