たった一言が運命を変える





「落ち着け、名前」
「ええ…そうね」
「君は指揮をしてくれれば良い。大丈夫だ、俺達は決して死なない」

私はヒースの言葉で落ち着きを取り戻し、メンバーに指示をだした。その間も彼はずっと私を見守ってくれていた。この戦争が終わったら、きっとこうして彼の優しさを感じることもなくなってしまうだろう。

「ラガルト、気をつけて」
「おいおい、そんな心配すんなって」
「だってあなた魔法に弱いじゃない」
「当たったら回復してもらえばいい話だ。いくらソーニャの腹心の一撃でも、残念ながら俺は死なないからな」

ウルスラの能力がいかほどのものかは未知数だが、今までの黒い牙の力を考えると相当高いに違いない。警戒しながら進み、ニノを仲間にして分かれていた部隊と合流した。
ヘクトル達がゼフィール王子の元に向かうのを見届けて、私は敵将の彼女の方へと足を踏み出した。

「ウルスラ…」
「……あなた、名前ね」
「リーダス兄弟の妹よ」
「知っているわよ。ニノよりもずっと優秀で博識で…勿体ないとソーニャ様が仰っていたもの」

ニノのことを嫌っているというのはラガルトから聞いていたものの、ソーニャが私のことを認めていたというのは非常に意外だった。
ということは、まさかネルガルは私の存在に気付いているのだろうか。

「ハマーンの杖をくれたのはあなたでしょう?」
「ええ…よく気が付いたわね」
「なぜ敵対する私達に?」
「ふふ、ヴァイダとかいう、あの女を始末してほしかっただけよ」

ウルスラが冷酷な人だということは、これだけの会話でも十分解った。微笑んではいるが、これは本当の笑顔ではない。冷たい視線が馬上から振りかかる感覚がした。

「ウルスラ、私はあなたを救いたいと思っていたわ。でも……」
「私を救う…?貴女は面白いことを言うのね。ここで死ぬというのに」
「ごめんなさい……あなたの魔法は、私には通用しないの」

相手を逆撫でしないよう言ったつもりだったが、やはり攻撃を放ってきてしまった。心配そうにこちらを見守っているルセアやパント様の様子が視界の端に入ったが、もはや私の前では、彼女の魔法は無力化していた。

「……何者…?」
「ウルスラ…貴女とは…もっと違う、平和な世界で出会いたかった…」
「……」

全てを終わらせるために私も魔法を放とうとした瞬間、宮殿内の電気が付きはじめた。王子を守るためのベルン兵が到着したのであろう。それに乗じて撤退していくウルスラの後を、私は必死に追った。


彼女を追った先には山が広がっていた。私は茂みに見を隠し、立ち止まったウルスラを見守った。

『…ウルスラ』
『リムステラ…様…』

(、まさか…!)

私が飛び出そうとした瞬間、崩れ落ちるウルスラの姿が目に飛び込んできた。
また救えなかった。私は、何のために力を得たの?誰かを救うためじゃないの?兄さんの時もそう。ただ見てるだけだった。ほら、ウルスラもこうして。

「リムステラ!」
「……名前」
「待って、お願い。私の話を聞いて」
「……」
「私、初めはウルスラを助けるつもりだったの。でも、彼女があんなにソーニャに傾倒しているなんて思わなかった」

私の話を、リムステラは相槌もなく静かに聞いていた。ただ無表情で淡々としていたが、しっかりと耳には届いているようだった。

「それでも、諦めちゃいけないわよね。私はそういう立場なんだから。しかも、この状況も二度目」
「……」
「ねえ、リムステラ。あなたには命が重く感じるかしら?」
「………私には解らない」

リムステラが私から視線を外すのを見逃すはずもなかった。私はずっと山を見て話していたのだが、これまで彼女が私から目を話すことは無かったのだ。警戒心が薄れたということだろうか、それとも質問の内容に何かを感じたのだろうか。

「兄さんのことも、ウルスラのことも、私はあなたを責めたりしないわ。だってこれはあなたが望んでいることではなく、ネルガルが望んでいることでしょう?」
「ネルガル様の為に」
「…きっと、私達は次に会う時も戦場でしょうね」
「……」

ネルガル、という単語を発した時に彼女の方を向くと強い視線と言葉が返ってきたが、私が再び山の方を向いて話すと彼女もまた視線を反らした。

「リムステラ」
「……」
「話を聞いてくれて、どうもありがとう。早く行った方が良いわ。皆が私を探しているだろうから」
「…判った」

そう言ってリムステラは消えた。私は彼女の消えた場所を見つめて、様々なことを考えた。
なぜ彼女は私を殺さないのか。
なぜ話を聞いてくれたのか。
なぜ私は、彼女を救いたいのか。
名も無き問いは何者にも導かれることもなく宙に浮かんでは落ちて砕けた。

「そろそろ行かないと、皆が心配するわね」

ウルスラに、さよならの言葉と聖十字を捧げて私は城の壁に沿って歩いていき、正門を目指すことにした。ベルンの正規兵が来たならば、恐らく彼らはまず王妃にファイアーエムブレムを返しに向かうはずだと予想したからだ。
私のような民間人が王妃に会う必要はない。パント様とルイーズ様がいらっしゃるなら安心だし、そう心配はしていなかった。



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