人形と人間の狭間
雨が上がり夜になって、ニノとジャファルが何処かに向かったという情報が入り、私達は二人を追い掛けることにした。嫌な予感がした。邪悪な何かが私を阻んでいるような、でもその中にも暖かみがあるような、とても居心地が悪い気分だった。
「さぁ、黒い牙の流儀にのっとって裏切り者の処刑といきましょう?死の制裁、たっぷりと受けてもらうわよっ!!」
「そうはさせない!ニノ!ジャファル!無事か!」
私達が到着した時、既に二人はソーニャに会ってしまっていた。ニノが事実を知るのはもっと後にしたかったのに、私はいつも行動が遅くて毎回後悔している気がする。
「そこにいるのは、名前ね。今こっちに付いたら特別に許してあげるけど…どうする?」
「名前…!待ってくれ!」
エリウッドが制止の声をかけてきたが、心配せずとも仲間になる気など更々ない。私はソーニャの方に歩み寄ったが、少し違和感を覚えた。どうやら怪我をしているようだった。その傷は、恐らく斧で付けられた――――斧?
私の背中に嫌な汗が伝った。まさか、でも、信じたくない。
「その傷は……まさか、父さんが…」
「良く分かったわね。あの男、逆上してこの私に触れてきたのよ?だから始末してやったわ!」
「そう…ソーニャ、あなたは本当に……いえ、もはやこの言葉は必要ないのかもしれない…」
あの暖かみは父さんからのものだったのだろう。父さんの警告が、私までこんな形で届けられていたとは思いもしなかった。
しかし、その父すらも亡き者になっていたなんて。
「父さんの命を奪ったのは、あなた?」
「ええ、もちろんよ!あの小汚いモルフもいたけれど、私が始末してやったのよ?ふふ、光栄に思いなさい」
小汚いモルフ、誰のことを指しているのかはすぐに分かった。リムステラにはもう直接手を下してほしくなかったから、確かに良かったのかもしれない。しかし、その事実は決して許せなかった。
「ソーニャ…あんなにも暖かかった家族を奪ったこと、私は決して許さない」
「こちらから出向く手間が省けたわ。逃がさないわ。ただの一人もね!!」
そう言ってソーニャはワープして玉座があると思われる部屋に消えた。父さんは死んだ。彼女がその仇だと分かっていても、なぜか気が立たなかった。同情しているのだろうか。モルフを人形と卑下する自分自身が彼らと同じ同じモルフということに気が付いていないという点に、哀れみを持っているのだろうか。
いや違う。そのどちらとも正当な理由ではあったが、しっくり来なかった。
「名前、行きましょ!あんな奴、放っておけないわ!」
「ええ、そうね」
あと、どれくらいで終わるのだろう。この負の連鎖が、いつ終わりを迎えるのだろう。もう嫌だった。こんな形で家族がばらばらになっていくのは耐えられない。
ソーニャを憎み、ネルガルを憎み、黒い牙を殲滅させれば戦いが終わると思っている人は幸せだ。私にとってはその後こそが本当の戦いだというのに。
兄の死と向き合い、亡くなった自分の家族を弔い、死を受け入れなければならない。
「……ジャファル」
「…何だ」
「あなたは、兄さんと話した?」
「……」
ジャファルは何も言わなかった。ニノの隣にいる彼は死神でもなく、暗殺者でもなく、ただの人間だった。リムステラが自らの存在をどう考えているのかは解らない。
それでも、私は人が変わったジャファルを見ていると尚更彼女を救いたくなった。
「…俺は、全てお前の指示に従う」
「ええ、頼りにしてるわ。ジャファル」
この人はもう一人で歩いて行ける。私が救いの手を差し延べずとも、自分の足でしっかりと地に足を付けることが出来ていた。
そして私は緑の髪の少女の元へ向かうのであろう彼の背を静かに見送った。あんな風に、自分も素直になれたらどんなに楽だろう。
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