深き闇の力
次に向かうべきところを皆に聞こうと神殿を出ると、エリウッド達はアトス様と会話をしているところだった。そして私を見て、出発を促した。
「さて…では、行くとするか。地下へ…ブラミモンドに会うとしよう」
「ブラミモンド?あなたと同じ八神将の…あの“ブラミモンド”が、ここに?」
私の背中に嫌な汗が流れた。とうとう、あの人と会う時が来たのだ。そう、あの人は私の残された――
アトス様の話によると、大陸の各地にある神将器の封印を解くことが出来るのはブラミモンド様のみだそうだ。
私達はアトス様の転移の魔法で封印の神殿へと場所を移した。そこは暗く、ヘクトル曰く薄気味悪い場所だった。
「あなたが、ブラミモンド…」
「ああ、そうとも。僕に何の用かな?地上に生きる者たちよ」
その声は間違いなく“あの人”だった。私は動揺する気持ちを抑えて彼らの会話に耳を澄ませた。
エリウッド、リン、ヘクトルの三人とアトス様でブラミモンド様を説得していた。私も話に加わりたかったが、アトス様の前ではそうすることも出来ず、ただ見守っていた。
その時強い光が周りを包み、封印が解かれた。地上に戻り、エリウッドがひとつの疑問を口にした。
「結局、なぜあの人は封印を解いてくれたんだろう?」
「さて、な。あれは、闇。決して見通せぬ深き暗闇…その本質は、元より常人に理解できるものではない」
アトス様の言葉に、私の胸が少し痛んだ。あの人の持つ深き暗闇…それは、私にも共通するものだ。常人には理解できない、特別な力。
(理解できない…。ええ、間違いなくそうでしょう。でも、アトス様。それを理解しようとしてくれる人もいるものよ)
“烈火の剣”を手に入れに行こうとした矢先、私達の行く手を阻んだのは紛れも無くネルガル本人だった。
私達の抵抗も虚しく、ニニアンを攫いニルスとエリウッドにダメージを与えて去って行った。
「ネルガル……許さない、決して」
私は迷いのない決意の炎を心に燈した。ネルガルは 彼 の知り合いで旧友。しかし、それすらも無にするほど私の心は憎しみに溢れていた。
「名前さん…」
「…ネルガルは闇魔法を使ってくる…私は貴方の力に頼ってしまうかもしれないわ」
「私は…如何なる時も、名前さんの指示に従います。それがどんなに否定されようと、私は貴女の道を信じます」
「ありがとう…本当に、ありがとう…」
その瞬間憂いを湛えていた彼の瞳には気が付かなかった。この時から、私はルセアのことが判らなくなってしまったのかもしれない。今まで離れていた分、また離れるのも苦ではないと感じてしまったのだろうか。
どちらにしても、そう感じてしまう自分が悲しかった。
「名前、行くぜ!神将器は絶対渡さねぇ!」
「ええ、もちろんよ」
ヘクトルの気合いの篭った呼び掛けに応じ、私は彼らと神将器を手に入れるべく洞窟の中へと入った。こんなに強くなれば、私の指示など差して重要ではないだろう。
リムステラとはいつ会えるのか。ニニアンは無事なのか。また、ブラミモンド様は何故封印を解いてくれたのか。
私は彼らについて行きながら様々なことを考えていた。
私がそんなことを考えている間にも、ヘクトルは玉座へとたどり着き、テュルバンが現れた。彼はアルマーズと一体化しているようで、自分を戦わせろとヘクトルに言っていた。
「ひとたび我が力 手にすれば…安らかな床で生涯を終えることはかなわぬ。お前の死に場所は、戦場。血と鋼に満ちた狂乱の園となる」
「…構わねぇ。俺は親友を助ける。そのためにここまで来たんだ。アルマーズ!お前の力、俺に貸せ」
それを聞いて、私はとてつもなく嫌な予感がした。これから、ヘクトルの身に何かが起こる…。しかしこの時点でその核心部に迫ることは出来ず、ヘクトルに何かを伝えることも出来なかった。
外に出ると、アトス様とエリウッド、リンが待っており私達は無事合流してデュランダルを手に入れるべくオスティア近郊の洞窟へと向かった。そしてエリウッドが洞窟から出てきて、デュランダルを手に入れたことを報告した。
「剣が光を…みんな気をつけろ。何か来る…!」
現れたのは一体の氷竜だった。私にはその氷竜が何かを伝えようとしているのが判ったが、他の皆は気が付いていないようだった。手立てを考えているうちに、エリウッドが竜を斬るのが視界に入った。
そしてネルガルが現れ、氷竜がニニアンだったという事実が告げられた。私にとってはあまり驚くべき内容では無かったが、だからといってどうすることも出来なかった。
「惨めだな、アトスよ!だが、過去の偉人に敬意を表しここは一度、ひくとしよう。それに、500年前…一度は同じ道を目指した友人としても…な」
アトス様がフォルブレイズを用いてネルガルに対抗したがかすり傷程度のダメージしか与えられず、むしろダメージをくらってしまった。
「“黙示の闇”アポカリプスの使い手であるあの方がいてくれたら…」
「名前か」
「ネルガル…私は貴方を許さない。家族の仇は私が必ず…!」
「ふっ…お前の闇の力、篤と見届けよう」
そう言ってネルガルは消えた。ニルスの暗示も解け、彼もまたニニアンを亡くしたことを受け入れられないようだった。
(大好きな人を亡くすことに、慣れてしまったのかしら)
悲しみに暮れるエリウッド達を淡々と見つめる自分に嫌気が差した。どうして、ニニアンの死を純粋に受け入れられないのだろう。私は、無意識のうちに兄さんと彼女を天秤に掛けていた自分の冷酷さを垣間見たような気がした。
「ニニアン…ごめんなさい」
それから私達はオスティア城に戻り、体勢を整えることにした。ニニアンのことで軍に衝撃が走る中、私は一人冷静にこれからのことを思案していた。
そしてアトス様からネルガルの話を聞かされた。ヘクトル達にも後で話すと言っていたが、私に個別に話すことに意図的な何かを感じた。
「アトス様は、何故その話を…私個人的にお話しなさるのですか?」
「うむ…お前さんならネルガルを、奴を憎むだけでなく、また違う感情を抱いてくれると思った」
「…確かに、私はヘクトル達とは立場が違います。モルフについても…同じ」
「何をする気か、わしに聞かせてはくれぬか?」
私は首を横に振った。
リムステラはモルフだ。話したところで否定されるに決まっているし、ヘクトルやエリウッドに話されては困る。もちろんアトス様を邪険に感じている訳ではないのだが、偉人からの余計な気遣いが私にとって少々厄介であった。
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