作戦開始





一方の私はふと気配を感じ、その方向へと向かってみたが残念ながら何も無かった。

「……リムステラ…」

強い力がこの島に渦巻いていることはよくわかる。しかし、それがあちこちから発せられており場所が特定出来ない。
この力は、一体何の為にあるのだ。そんなやるせなさが私を支配した。

「危ない、エリウッド様!避けてっ!」

そんなニルスの声が聞こえた時、上空からサンダーストームが降ってきた。
これはおそらく彼女の魔法だ。しかしそれにしてはあまりにも強すぎる。一抹の不安を覚えニルスとエリウッド達が話している少しの間考えていたが、これといって答えは出なかった。

「隠れてないで、出ておいでよ!そこにいるんだろ?」


あなたに、ずっと会いたかった。
たとえ家族の仇だったとしても、私は――



「…! 何者っ!?」
「……リムステラ。いつもネルガルと一緒にいたヤツだ」
「黒い髪…金の瞳…あなたもモルフね!?」
「…おまえたちのエーギルをもらう。……出でよ、我が下僕たち………」

ここでの会話はあまりに危険だった。せめて視線だけは外さないようにしていたのだが、リムステラは私に目を合わせることなく拠点にしている遺跡へとワープしていってしまった。
仕方ない。彼女には何も言うことなく計画を遂行しよう。私がカナスさんに目配せすると、彼はしっかりと頷いてくれた。

「名前、ネルガルは近い!指示を頼むぞ!」
「ええ、最善を尽くすわ」
「あの…名前!僕も頑張るから!」
「無理は禁物よ。でも…頼りにしてるわよ、ニルス」

リムステラのところまで、カナスさんとパント様を優先に行かせたい。ラスにはエリウッド達の足止めでも頼もうか。私はいざとなればルセアにワープで飛ばしてもらうか、ハイペリオンに運んでもらえば良い。

「名前、大丈夫か?」
「平気よ。ただ、少しばかり不安があるけれど…」
「俺達は君が思っているほど弱くはない。信じて指示を出してくれ」

彼の言葉はまるで私の弱気な心を見透かしているようだった。これではリムステラにも示しがつかない。私は握りしめる拳に少し力を入れた。

「君は一人じゃない」
「……ありがとう。あなたを……貴方達を、信じるわ」

ヒースの笑顔を見て緊張が少しほどけ、握っていた手をゆるりと解いた。
もう怖くない。みんながいる。

そして、激しい戦闘が始まった。モルフの精鋭舞台はどこからともなく沸いてきて、それに耐えて進軍すると再び同じことの繰り返しだった。

「カナスさん、パント様!」

増援が絶えたところを見計らって、私は二人に指示を出した。
ヘクトル達はと後方を窺ってみたがまだ敵に足止めされていた。ヒースはと辺りを見回すと、彼は西方にて一人で戦っていた。

「魔法で強化されているようだ。カナス、君も気をつけて」
「はい、パント様」
「……おまえの命と、エーギルをもらう。全ては、我があるじのために」

カナスさんがルナの呪文を唱える声が聞こえた。
どうかリムステラが無事に助けられるように。
私の力を使っても構わないから、残された大事な人を守って下さい。
私はきゅっと目をつむって、事の成就を祈った。

「名前さん!」
「カナスさん…」
「終わりました……。成功、です!」

私はほっと胸を撫で下ろした。
そしてその戦いの最中、周りの偵察に行って貰っていたラスから情報が入った。
どうやら遺跡から少しのところに小さな小屋があるそうで、私はそこに彼女を隠すことにした。
パント様とカナスさんに代わる代わるスリープの魔法をかけてもらい、見張りはラガルトとラスにお願いした。

ヘクトル達はゆっくり進軍してきており、まだ時間は稼げる。
私とヒースはラスの指示通りにけもの道を抜け無事に小屋にたどり着いた。

リムステラを寝かせ、私は上手くいくよう祈りつつ強力な睡眠魔法をかけた。通常のスリープではあまりに短期間で時間が足りないため、私はありったけの力で彼女に魔法をかけた。

「これで…いいのか?」
「ええ、ありがとう…ヒース」

そして私達は小屋を出て戻ろうとした。しかしヒースが立ち止まったのを見て私もまた足を止めた。どうやら彼は酷く思い詰めているように見えた。

「どうか…したの?」
「そろそろ…教えてくれないか?君の、本当のことを」
「…!」
「以前聞いた時は、教えられないと言っていたが…戦いも終盤だ。俺の命が尽きてしまう前に、聞いておきたい」

こんなに胸が押し潰されそうなくらい辛い思いは、兄さんを失った時以来だ。
私の出生を話して、果たしてヒースはそれを受け入れてくれるのだろうか。はたまた驚きの入り混じった表情で私を拒絶するのだろうか。

「……私は、」

私は八神将ブラミモンドの子孫であり、唯一の後継者。普通の人間の何倍もの長い時を、暗い闇の中に一人生きる者。

あんなに躊躇っていたのが嘘のように、すらすらと口から言葉が出てきた。私は速くなる動悸を悟られないように俯いてヒースの言葉を待った。

「…何故言ってくれなかったんだ」
「え…?」
「君はそれを、たった一人で抱えていたのか?」
「それは…」

カナスさんとパント様はブラミモンド様を研究対象としているため、私が彼の後継者だと気が付いていた。基よりパント様はエトルリアの貴族で、私もまたその生まれだったので尚更だ。

「どうして…どうして君はそうやって全てを抱え込むんだ?」
「……ヒース…」
「名前……好きだ。君を守りたい。君がどんな存在でも構わない」

抱きしめられて告げられた言葉は、ずっと私の欲しかったものだった。しかし今の私には返事を出来るほどの余裕は無かった。
ただ今だけは、この秘めた思いと共にヒースに全てを委ねていたかった。
たとえ叶わないとしても、ずっと想ってきた彼からの好意を拒否することは出来なかった。

こんなにも愛しているのに、私と彼の歩む道がどうして違えてしまうことがあるのだろうか。
だが私のような存在が、彼の愛を受け取る資格など無い。私は彼の背中に腕を回すような気持ちに応える行動はしなかった。
やんわりと彼の肩を押し、帰途に付くことを促した。




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