問の答えは一つ





ニルスを見送った後、皆はそれぞれ感情を抱きながら竜の門を後にしたが、階段を降りて私の足が止まった。6つの部屋が単調に並ぶこの空間は、不思議と私を迎えてくれているようだった。

「………」

願ってもない再会は、酷く滑稽なものだった。作られた家族。初め見た時はまるで自らが侮辱されたかのような嫌悪感を抱いたが、改めて見るとやはりそれは私の家族そのもので。

悔しかった。倒した時に安らかに微笑む彼らを見て、言いようのない感情が湧き上がってきた。本望だ、とでも言いたかったのだろうか。

「名前」
「……ブラミモンド様…!」

目の前には姿を消したとばかり思っていた、闇のローブを被った私の祖先がいた。血は繋がっていなくとも、今の私にとってはたった一人の家族だった。

「…何のために、私へこの力を授けたのですか?」
「我の力がお前の人生を変えてしまった。名前、せめてもの報いにひとつだけ願いを叶えよう」
「え……願い?」

ブラミモンド様は優しい口調ではあるがいつもの冷たい目で私を見下ろしていた。時間はおそらくそう長くはない。今すぐに迫られた結論に、何を選択するか悩んだ。けれど私の心はいつの間にか不思議と決まっているようで、1つの事案がするりと唇から紡がれた。

「……長い私の命を、リムステラに分けて下さい」
「お前の寿命は人と同等かそれ以下になるが、それでも…」
「はい。構いません」

彼は、私を長く生かそうとして力を授けたわけではない。そして、恐らく何年もかかっやっと力を持つ人間が構築されたのだろう。そう考えながらぼんやりとその姿を見ていると、ブラミモンド様は何か呪文を唱えていた。そしてちらりと私より後ろの人物を視界に捉えたので、何事かと振り返ると、薄暗い中に見慣れた紺色の甲冑を来た彼がいた。

「…ヒース」

その言葉と同時に、ブラミモンド様から閃光のようなものが放たれた。ぼんやりする耳でヒースがこちらに駆け寄ってくる足音が聞こえる。思えば、彼は幾度となく辛い時に私に手を差し延べてくれた。

ヒースのことが好き。
そう感じたのはいつのことだっただろう。気が付いたら側にいて、気が付いたら彼のことを考えていて、気が付いたら彼の背中を追っていた。

「名前……」
「…平気よ、ありがと…う…」

光が収まり、ぼやける視界の端にブラミモンド様の姿がゆらゆらと揺れていた。相変わらず何の感情も宿していない瞳をしていたが、この人とて私を守ってくれた一人なのだ。

「名前よ……最後に聞こう」
「はい…」
「愛する者はいるか?」

人格を失ったはずのブラミモンド様から発せられた“愛”という言葉の重みは計り知れなかった。彼は誰かを愛したのだろうか?もし居たとしたら、その相手とはどうなったのだろうか?
ヒースが隣にいる中で返事をすぐに出すことは出来なかった。この戦いの最中、私はたくさんの大切な人を作ってきたが、愛する者はただ1人のみ許される。
ぼんやりしていた頭が急に覚め始めた。

「それは、今すぐに答えを出さなければならないのですか?」
「……」

無言のブラミモンド様を見て、こんなにも辛い時はない気がした。胸が締め付けられる思いだった。
ルセアか、ヒースか。私はどちらかの人間を選ばなくてはならない状況に陥ったのだった。

「…そんなのって…」

ブラミモンド様に視線を合わせると、変わりない冷たい瞳だったが、その奥には悲しみが宿っているような気がした。




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