遠ざかる意識の中で
誰よりも私を理解し励ましてくれたルセアと、誰よりも私を愛し支えてくれたヒース。二人は私にとってかけがえのない存在であり、何人にも変えられない。
大好きな親友と、大好きな人。
そんな選択を迫られたことは今までに一度もなかった。
「…既に決まっているだろう。何故そこまで悩む」
「……え?」
“既に、決まっている?”
ブラミモンド様の言葉に、背中を一筋の嫌な汗が伝った。
もう彼には分かってしまっているのだろう。私の心の内の葛藤も、この想いも。
私はその場に力なく座った。全てが終わるまで強くあろうと決めていたのに。
この答えを出すことは、もはや片一方を見捨てるほどの残酷なものだった。
「いいえ……あの人は、私の大切な…」
「しかしお前が選んだ人間は此処に居る」
「…っ…!」
ブラミモンド様は冷たい視線をこちらに投げかけた。
いくら違うといっても、きっとこの人には私の考えくらいお見通しなのだ。
また、彼を守れない。
せめてブラミモンド様の加護を付けてあげたかった。私の弱い心のせいで、再び彼を悲しませてしまうのだろうか。
しかし一方で私の中では大好きな大好きな、家族の言葉を信じたい気持ちが膨らんでいた。
『……名前は俺の…リーダス家の妹だ。……泣かせたらブッ殺す』
『――あいつは、お前さんが思ってるよりずっと、名前のこと想ってると思うぜ』
『…名前を頼むぞ』
もう曖昧な返事は出来なかった。こんなにも家族からの信頼を勝ち取った彼を、どうして選ばないことがあるだろうか。
悲しみの連鎖がいくら続いて自分を見失いそうになっても、彼だけは揺るがない思いで私を引きずり戻してくれた。
「私は……私は、」
ブラミモンド様からの視線が痛いほどに突き刺さる感覚があった。彼も、私を見守ってくれていた一人だ。
家族を最後に失った場所で、私は彼らに誓いを立てるように声を絞りだした。
「好きです…。ヒースを……愛しています…!」
私の出生を知っても好きだと言ってくれた。これは夢で、明日には消えてしまうのではないかとさえ思った。
そして消えてゆく家族を見送る度に、彼は隣で私が生きてこの地に立っているということを教えてくれた。
私は人間になったのだ。
もう何百年という長い月日を一人で生きる心配は無用だ。他の皆と共に過ごしていくことが出来る。無論、まだ体は新しい人生の流れに慣れておらず言うことを聞かなかったが。
ブラミモンド様はヒースに視線を合わせて何か言葉を口にしたが、私には聞き取れなかった。
「はい。必ず」
返事を返した彼の声はいつもよりもずっと、しっかりしたものだった。
そしてブラミモンド様に名前を呼ばれ、まどろむ視界の中に彼の表情を捉えると、いつもの冷たい目の中に優しさを宿したブラミモンド様がいた。
「お前は、決して…闇に飲まれてはならぬ…」
「……はい…約束…しま…す…」
その日から私は大好きな家族と決別した。遠ざかる意識の中、馬の足音が聞こえたが私に起き上がる余力は残っていなかった。
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