夢の中でも背中を押すのは決まって
夢を見た。そこには家族が皆揃っていた。父さん、ロイド兄さん、ライナス兄さん、そしてウハイ。
今度こそモルフではなく、本物の家族だった。
兄さん達は私に気付きこちらに近づいてきたが、その口から出たのは想像とは違う言葉だった。
「名前、お前はまだ来るな」
「俺と兄貴とした約束、忘れたなんて言わせねぇぞ?」
その言葉で察したが、恐らくここはあの世といわれる世界なのだろう。兄さん達が止める理由もそれならば辻褄が合う。私はブラミモンド様の魔法で世界の狭間を彷徨っているのかもしれないと考えた。
二人に帰りを促されたが、私はついこの前ラガルトに言われたことの真偽を確かめたくなった。その事実を最期まで言わなかった、彼の気持ちも。
「あの…ウハイ、」
「名前……」
「あなたが…私の恩人…だったの?」
私の問い掛けに、彼はゆっくり目を閉じて知ってしまったのかと重い口を開いた。やはり、ラガルトが言っていたことは間違いではなかった。
ここにはいないもう一人の家族に感謝しながら、限られた時間の中で目の前の命の恩人と精一杯話そうと私は心に決めた。
「ラガルトから聞いたの。彼は…存命しているわ」
「そうか…。あいつは生き延びたのか…」
変わらないウハイの優しい声が私の涙腺を緩めた。私の悲しみを感じるかのような視線を感じ、吹っ切るように伏せた目を開けるとウハイは私に言った。
「確かに私は…お前の命の恩人かもしれん。だが、忘れるな…牙は全員、お前の家族だ。その事実はこれからも永遠に変わらん」
「………ウハイ…」
「すまない、名前。もうそろそろ時間のようだ」
嫌だ、と縋りたかった。
大好きな家族、大好きな兄、全てを失ってまでして手に入れた平穏が今になって馬鹿馬鹿しく思えた。彼らのいない日常なんて、私には考えられない。
「……」
「良く聞け、名前。お前は私達のことを引きずってはならん。私達がいなくとも、お前には良き友がいる……」
ふと目を覚ますとまず目に飛び込んできたのは、金色の双眸だった。
「名前」
「…リムステラ……?」
「目が覚めたか」
「……みんなは…!?」
ここにいるよ、とパント様の声が聞こえた。体を起こすとパント様はもちろん、カナスさんとラス、そしてヒースの姿が目に映った。誰も、傷ついていない。
兄さん達はいないけれど、この人達は私の大事な大事な、友人だ。
「リムステラ…、全て終わったの。私と共に…歩んで行きましょう?」
「………ネルガル様は…ネルガル様を…」
「ネルガルは、私たちが倒したわ」
リムステラの瞳が大きく開けられ、私の方を凝視した。感情を持たないはずのモルフの彼女が、信じられないというような感情を抱いているのだろうか。
「あなたも、私の兄を奪った……。同じでしょう?」
「何故私を生かした」
「それは…あなたが私を生かしたからよ」
何度だって殺せる瞬間はあったのに、彼女は私に魔法を振りかざすことは無かった。魔道書を含め持ち物は全て回収してあるため私に攻撃することは出来なかったが、それでも無表情な瞳の奥に宿る攻撃的な炎が揺らぐような気配はなかった。
「どうして抵抗しなかったの?」
「ネルガル様のいない世界に、私が生きる意味はない」
私から視線を外し、彼女は俯いた。その瞳には何が映っているのだろうか。先ほどの憎悪か、絶望か。それとも、また別の感情か。
「あなたの生きる意味を…一緒に見つけるわ」
「……」
「たとえ魔法で力が強化されて寿命が縮んでいても、もう心配ない…」
優しく彼女の手を両手で握るとそれはほんのりと暖かく、血の通った人間のようだった。そして驚いたリムステラが顔を上げた時、金色の双眸がゆらりと揺れるのを私は見逃さなかった。そう、私は必ず彼女を救うと決めたのだ。
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