過去を知ってもなお貴女のことが





「ルセアの苦しみを…分かってあげられなかった…。隠されることが辛いのは、十分知っていたはずなのに…っ!」
「名前さん…」
「…っ…ごめんなさい…ルセア…」

溢れる涙を抑えることは出来なかった。しかし親友を裏切ったも同然な私を、彼は優しく慈悲深い言葉で癒してくれた。
そんな優しさが痛くて、痛くて堪らなかった。

「私は……エトルリアの貴族に生まれたの」

もう、逃げられない。
私の出生から今までのことを洗いざらい彼には知ってもらいたい。せめてもの代償と思うと申し訳なくて、また涙が零れてしまいそうだった。

「そしてブラミモンド様によって、私は彼の子孫となって誕生した。それからは…」

強大な闇の力を持つことが一族に分かり、私は家族から気味悪がられていた。そしてある祭りの晩に、眠っていた私は田舎町の小屋へと置き去りにされた。
人の声がして気が付き、外を覗くと山賊が村を荒らしていた。知らない村、知らない人、知らないものばかりで私は混乱した。

「そんな時、山賊が私に気付いて近寄ってきたの。そして…斧を振り下ろそうとした瞬間、助けてくれたのがロイド兄さんだった」

しかし真実は兄さんが来る前に、私の存在に気がついたウハイがそれをロイド兄さんに伝えていたらしい。それはつい最近ラガルトから聞いたことだ。
そして私は黒い牙へと迎えられ、幸せな時を過ごしていた。ロイド兄さん、ライナス兄さん、父さん、ウハイ、ラガルト……皆とても優しくて強かった。

「黒い牙に入ってから、ブラミモンド様の声が徐々に聴こえるようになったわ。私をずっと見守ってくれて、アドバイスもしてくれたの」

ブラミモンド様の声が聴こえることは誰にも打ち明けなかった。しかし月夜に力の増大する私を不審に思った兄さんが調べていた可能性は大いにあった。
リムステラの件については私の自己満足でしかないかもしれないが、受け入れてほしい。彼女もまた被害者であり当事者であるから。そう伝えると、ルセアは頷いてくれた。

「それからは…恐らく貴方も知る通りの私だと思う」
「…そう…だったのですね。だからパント様は名前さんのことをご存知で…」
「ええ。パント様とカナスさんの専門分野のようだったから、私がブラミモンド様の子孫だってことは分かっていたようね」

これで確かに大部分はルセアに話したことになるが、まだ話していないこともあった。それは紛れもなくヒースとの関係だ。
悩みに悩んだが決めたことは貫き通すことに尽きる。それに他人の口からルセアの耳に入ることが嫌だった。

「…あのね、ルセア」
「はい」
「私……ヒースのことが、好きなの」
「…そう…ですか」

彼はいつもの表情で私に言った。全く驚かない彼に理由を問うと、その回答は衝撃をもたらし、声も出なかった。そして私は一人その状況を理解出来ずにいた。

「ヒースさんに以前聞きました。名前さんのことが好きだと」
「えっ…」
「はい。私には知っていてほしいと仰っていました。ですが…直接名前さんの口から聞けて良かったです。どうか…お幸せになって下さい」
「ルセア…」

彼の表情が寂しげに見えて、私は思わずルセアを抱き締めた。そうしたら次は彼が驚く番だったようで、短い声を発してしばらく固まっていた。


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