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名前が一人で皆と別の方向へと歩いていくのが見えたので僕はその背中を追いかけた。ここに近付くにつれ様子のおかしい名前から少し嫌な予感がしていたが、彼女の背中からは何も語られることはなかった。
Episode:10 News of a death
彼女は真っ直ぐ目的の場所に向かっているようだった。僕は距離を取りながら今までの名前のことを考えていた。
初めて出会った時と、仲間になってから挨拶した時、そして今。どれも彼女のはずだが、別人のように印象が異なり、知れば知るほど第一印象から離れている。
「君は…何をしようとしているんだ…?」
名前は一つの民家の前で立ち止まり、何かを確認したあと近くの男性に話を聞いているようだった。静かな村で、二人の話は僕にも聞こえてきた。
「以前ここで医者をしていた人間はどこへ?」
「え?あー、あの人ならいないよ。死んだんだ、2年ほど前だったかな」
「…死ん…だ?」
「ああ、何とかっていう病気だとか聞いたけどな。詳しいことは知らないから、奥さんにでも聞いてくれ」
彼女は間違いなく動揺しているようで、男性が去ったあともその場に立ち尽くしていた。強く握られた拳が震えているのがここからでも確認できることから、それほどの衝撃があったということがわかる。
名前は歩き出した。
追うのはやめようと思ったが、彼女の崩れそうな姿を見てその思いは吹き飛んだ。
「名前!」
「…どうして…ここに…」
「何も聞かないから、側にいさせてほしい」
「クレイン…」
好きだ、とかそんな軽率な言葉を言えるほど僕に余裕はなくて、ただひたすら側にいたかった。壊れそうな君の側に。
気が付いたら目で追っていて、気が付いたら側にいたくなっていた。これが好きだという気持ちだと分かったのはつい最近だったが、僕はその想いに素直になれないでいた。
側にいて何が出来るかなんて考えていなかった。何も知らないくせに、とまた罵倒されるかもしれない。しかしこんなに弱っている名前を一人にもできない。
「私…確認したいことがあるの…」
「うん、どこへ?」
彼女は再び迷うことなく真っ直ぐ目的地へと足を進めていた。その間も会話はなく、僕は名前の隣で表情を伺うも彼女は虚ろな瞳で前を見るだけだった。
足を止めた場所はごく普通の民家で、特に変わった様子はない。
「…本当に、死んだの?」
ぽつりと呟いた言葉はしっかり僕の耳に届いた。しばらくそこに立ち尽くしていたのだが、家の中から一人女性が外に出てくるのが目に入った。
「あら…家にご用ですか…?」
「ここに住んでいた医者は、どこへ?」
「主人のことなら2年前にこの世を去りました。ここは私と娘の二人暮らしです。貴女は…?」
「……弟が世話になったので。では」
名前は足早にその場を去ろうとしていたが、夫人はそんな彼女の背中に感謝の意と墓の場所を述べていた。僕は困惑している表情をした夫人に頭を下げ、彼女を追いかけた。
「名前、待ってくれ!」
「…」
「…名前?」
「私は…何のために…」
僕は突然膝から崩れ落ちる彼女を何とか支えることで精一杯だった。
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