王宮に出入りする貴族はメイドや傭兵を見下す人間も多かったため、私の貴族嫌いはこの場所に長く居たことが原因なのかもしれない。
Episode:11 Disturbing footsteps
メイドとして働いていると、以前とは大きく違い世の中の情勢がよく分かった。階級での権力の差、派閥間での醜い争い…ここではそれらを目にすることが増えた。
そして誰に諂えば自分の立場を意のままに出来るのかということも分かった。
それこそがヘレーネ様である。
「この手紙をゼフィールに届けなさい。内密に」
「はい。かしこまりました」
まずは最も近いヘレーネ様に信用されることが第一。ゼフィール様は王となられる方なので安易に近づくことも難しいためその後だと私は考えた。
ゼフィール様に手紙を届けた旨をお伝えすると、ヘレーネ様は私にお褒めの言葉をくださったあと、こう尋ねた。
「貴女の行動には隙がないので安心です」
「有り難きお言葉です。ヘレーネ様」
「ところで、貴女の雇われた経緯を伺ったのですが…事実ですか?」
「…どこまでお聞きになったかは存じ上げませんが、裏社会に身を置いていたことは事実です」
自覚はしていなかったが、私は騎士とメイドとを掛け合わせたような応対をするらしく、不審に感じるメイドもいると聞いた。
まさかヘレーネ様からこのような質問をされるとは思いも寄らなかったが、好機であることに間違いはなかった。
「貴女、名前は…」
「名前と申します」
「ええ。では名前、これからは私の密命を聞いてください。期待しています」
「かしこまりました」
ヘレーネ様とデズモンド様の仲は冷めきっており、それはもはや周知の事実。我が子である優秀な王子を妬むとはなんと卑俗な王だろうかと軽蔑しつつ、あのような貴族こそが私の嫌いな人間だと確信した。
「名前、あの噂聞きましたか?」
「何を?」
「ゼフィール王子が、王様の暗殺計画を練っているとか…」
「えっ?」
メイドの一人から聞いた話に私は耳を疑った。デズモンド王は20年前の戦争に乗じて王子の暗殺を企んだがリキア同盟軍の妨害で失敗している。その復讐だとしても、暗殺であるならば噂になるほど事を広げるはずが無い。ましてや優秀と言われるゼフィール王子が、である。
「おい、お前たちの中に名前というメイドはいるか」
「私ですが」
「ヘレーネ様がお呼びだ」
何かの策略に違いないと思考を巡らせていると、ヘレーネ様の側近が私の名前を呼んだ。これはもしかしてと嫌な予感が過ぎったが、王妃の呼び出しをメイドである私が断ることなど言語道断だ。私は側近に連れられて王妃の待つ部屋へと向かった。
「ヘレーネ様、名前を連れて参りました」
「通しなさい。貴方は下がって」
重苦しい扉が開き、姿を現したのは部屋と言うには大きすぎる、かといって広間でもない大きな空間だった。私一人その部屋に入り側近は静かに扉を閉めた。
「噂は…存じていますね」
「王様の暗殺、ですか」
「ええ。貴女にも一役買って頂きたいの。腕の立つ暗殺者であった貴女に…ね、名前」
私は少なからずここで働く中で暗殺者である自分の過去を忘れていたが、この一言で再び感覚を思い出したのだ。角度、距離、呼吸…。
一矢で目的の急所を付き確実に命を奪う方法を、私は知っている。
そう、私は復讐するために生きているのだ。弟を奪った人間を生かしてはおけない。忘れていた憎しみが溢れだした。
「詳しくはゼフィールに聞きなさい。貴女のことは話してあります」
「ヘレーネ様、私は…」
「よろしいですか、貴女はあくまでもベルン王宮に仕えるメイドですわ。それをお忘れなく」
冷徹な瞳を見てこの人も結局は権力が全てなのだと思い知った。この狭い王宮で欲を満たすには権力を持つしかないというのは分かっていたはずだが、ここに来て打撃を受けるとは。
私はヘレーネ様に言われるままゼフィール王子の元へと向かい彼の腹心たちと共に話を受けたが、その言葉は右から左へと流れていくだけだった。
(このままここに居ては、また貴族による都合の良い暗殺ごっこの駒になるだけだ)
(最後の目的を果たさないと)
そして、私は王宮を抜け出した。
これ以上他人の都合で人を殺すのは御免だった。私にはやり遂げることがある。
ソラの無念を果たすべくあの村の方角へ向かったもののベルンからの長い道のりの間、決意は途中で折れてしまった。
怪しい雰囲気の世界情勢を調べるうちに戦乱に巻き込まれたところ、エトルリアのロアーツ宰相の部隊に雇われ、アルカルドの元へと回されて西方三島へと赴いたのだ。
そして、彼と出会った。
1/26
prev next△
top 戻る