通りがかりの村人に医者の所在を聞くと、なんと2年前に死んだという。
嘘に決まってる、あんな強欲な男が簡単に死ぬわけが無い、私はその事実を簡単には受け入れられなかった。




Episode:12
The back of the eyes with a familiar.






あの男に復讐するため裏社会にまで足を踏み入れたのに、安泰な王宮からも脱走したのに、それも全て無駄だったと天から嘲笑うつもりなのだろうか。

「名前!」
「…どうして…ここに…」
「何も聞かないから、側にいさせてほしい」
「クレイン…」

そう、この人は不思議な貴族だ。こんな私を追いかけてここまで来てしまうほど、おかしな人。
何も聞かない?なぜ側にいてくれるの?聞きたいことはたくさんあったが、それよりも今は時間がなかった。

私は医者の家に行き、その夫人に会った。あの医者には私と同じ苦しみを味わってほしいと、弟の無念を話そうと、そう決めていたのに、老いた夫人を見てその思いは萎んでしまった。

「主人のことなら2年前にこの世を去りました…。ここは私と娘の二人暮らしです。貴女は…?」
「……弟が世話になったので。では」

寂しげなその瞳は、母が亡くなった時に見た父の瞳によく似ていた。私にこの人を責め立てることなど到底出来ず、途中で逃げるように足を進めた。


「…名前?」
「私は…何のために…」




“何のために生きてきたんだろう。全てを失った冷たい世界に、たった一人で”




膝が震えて倒れそうになったところをクレインは支えてくれた。もはや此処まで来た彼に隠し事は出来ない。というか、言わなければと思っていた“いつか”が来ないように怖くて逃げていたのだ。
しかしあの医者が死んだのならば恐れることはない。私はポツリポツリと過去を話し始めた。


「あの医者は、私が世界で一番殺したい人だった」
「え…?」
「私は復讐するために王宮を抜け出したの。それが理由…。なのに、既に死んだなんて…」


クレインは特に何を言うわけでもなく、静かに私の話を聞いていた。もともと彼は私に不釣り合いなほど素晴らしい家柄で、こんな人間を心配してくれるほど人格的にも優れている。そう、私からすれば完璧に近い存在なのだ。
そもそも期待なんてこれっぽっちもしていない。誰にでも優しい人なのだ、クレインという人間は。

「復讐…か」
「そう、弟の…ね」

私は全てを彼に話した。母が病に倒れ、父が自害し、弟もまた病に冒され、あの医師を恨んでいたこと。
しかし私の言葉はそこまでで止まってしまった。




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