Episode:13 Vivid words





次の言葉を出すのが怖い。未だに恐れがあったとは思いも寄らなかったが、彼にこれ以上の事実を話したくないという思いが強く、私は過去を全て打ち明けられなかった。

「…ありがとう、話してくれて」
「え…?お礼を言うのは…私の方なのに…」
「そんなことはないよ。ところで…名前、この戦争が終わったら君はどうするんだ?」
「それは…分からない。見当も付かない」

私はこの戦争で死ぬことが最善の判断だと思っていた。イリアには戻る家もなく、ベルンは故郷ではないし、サカとエトルリアには縁もゆかりもない。つまり、この戦争が終わったあと、生きる意味のない私には更なる苦痛が待っていることになる。それを覚悟するほどの気力はなかった。

「エトルリアに来ないか?」
「ちょっとクレイン、何言って…!」
「うん。君からしたら滅茶苦茶な話かもしれない。けれど、僕は本気だよ」
「そんなの……無理だよ…」

私の過去が露わになれば彼の家柄を傷付けることは間違いない。もちろんクレインのことは好意的に想っており、あの過去さえなければ首を縦に振りたい。この人と一緒にいれば理由がなくとも生きれるかもしれない。だがそうするには、私の過去はあまりにも血に濡れすぎていた。

「名前…僕は…」
「クレイン…私にはどうしても…」
「……行こうか。部隊と離れてしまうから」
「そう…だね」

クレインの差し伸べてくれた手を躊躇せず取った。ずっとこうしていたい、私の心が叫ぶ。しかし一瞬にして私の手は真っ赤に染まってしまう。汚れた手。何度洗っても全く取れない、人殺しの烙印だ。

「ごめん…クレイン…ごめんね…」
「……」

敢えて何も言わなかったのか、聞こえていなかったのかは定かではないが、彼の背中はいつもより大きく見えた。クレインと出会ってから、私の世界は変わっていった。
そう、まるで白黒の世界が鮮やかに色づいていくように。

「…あの丘……」
「ん?名前、どうかした?」
「あの先にソラのお墓があるの…でも寄るのはまた今度にする。全てが、終わってから…」
「いや行こう、僕もソラくんに会っておきたい」

彼の声は私の中に染み渡るように優しかった。涙がでそうになって俯いたのを肯定と受け取ったのか、クレインは手を離すことなく丘へ続く道に足を踏み出した。
お互いの体温が伝わって私の冷えきった手が温かくなっていくのが分かる。
そう、まだ私は生きているんだ。この世界で。

「ここ。ここにソラはいるの」
「…ありがとう、僕は―――」

クレインは何かを呟いたが、それは風の音に乗って飛んでいって私の耳には届かなかった。
私を残して家族3人とも空にいるはずなのに、なんとなく私は満たされているように感じた。

「僕は名前を一人にしたりしない」
「…クレイン、」

この両手はこんなに真っ赤に染まっているのに、貴方を傷つけてしまうかもしれないのに、どうして?どうして優しい言葉をかけてくれるの?
私は貴方の側にいる価値もない、いることは許されない人間なのに。


「どうして…っ…」


ねぇソラ。私はどの道を歩くのが正解なのかな。お姉ちゃん、分からなくなっちゃったよ。あの男は私が最後に殺す人間のはずだったのに、もう既にこの世にはいなかった。
これからは何のために生きればいいのかな?真っ暗な世界の出口はどこ?

ソラの墓の前で再び崩れ落ちた私を、クレインは優しく抱きしめてくれた。

「名前…僕は君がまだ分からない。それでも、信じたいんだ」
「信じる…?私を…?」
「そう。他の誰でもない名前、君のことを」

彼の言葉はやはり温かくて鮮やかで、そして残酷だった。




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