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Episode:14 Unchanging heart
部隊に合流して、僕たちはそれぞれの天幕へと別れた。戦いで疲れているはずなのに、目は冴えていて僕は頭を働かせて彼女の言葉を思い返していた。
『あの医者は、私が世界で一番殺したい人だった』
『私は復讐するために王宮を抜け出したの』
病死したソラくんの復讐のためにベルン王宮を抜け出したというところ、そこから僕と出会うまでの時系列は点と点が結ばれるように難なく理解出来た。しかし、なぜベルン王宮へ?
尽きない疑問に頭を振ってため息を一つ落とした。あそこまで頑なに何かを隠そうとするのは何故だろう。僕が近づくたびに離れて、彼女のことが分かるたびに遠のいていってしまうようだ。
抱きしめた感触はこんなにも残っているのに、それすらも幻想になってしまいそうだった。
そんな時に頭を過ぎったのが、彼の言葉であった。
「俺が思うにあいつは殺し屋だ」
名前の戦う様子を見ていると命の重さを微塵も感じないほど淡々と目の前の敵を倒している。いや…処理していると言った方が適当かもしれない。そして復讐に燃える言葉………嫌な予感が確信に変わるような気がしたが、それが正しいと決まったわけではない。
もし名前が暗殺者だとしたら、僕は―――
「今更、何が変わると言うんだ」
何も変わらない。温かく柔らかい体、悲しげな表情、涙に濡れる瞳、掠れる声。僕に見せてくれた姿を忘れられる訳がない。
こんなにも誰かのことを想ったのは初めてで僕自身どうすれば良いのか分からないというのが本心だが、自分に嘘はつきたくないという強い気持ちは確かだった。
戻ってきてからも名前のことしか考えていない自分が可笑しくて自嘲的な笑みを漏らすと、突然の来客があった。
「よう、坊ちゃん。元気か?」
「ディーク…ああ、ありがとう」
「随分と冴えない顔してるな。また名前のことか?悪いことは言わないから、あの女だけは……」
「うん、これでも分かっているつもりなんだ。でも…もう遅いんだよ」
するとディークは深くため息を吐き、弱ったなと頭を掻いた。名前が僕に打ち明けてくれた過去について彼に言うつもりは毛頭なかったが、ディークの様子から彼女の何かを知っていることは間違いなかった。
「あくまでも噂で聞いた話との整合なんだが…」
「ああ、構わない。教えてくれ」
「エトルリアにいた腕の立つ暗殺者の中に弓で標的を百発百中仕留める人間がいて、そいつの手は…」
ディークは僕の天幕を出ていった。もしかしたら彼の言葉は真実なのかもしれなかった。しかし、僕にとってそれは大した意味を持たなかった。
「君がどんな人間だとしても、今までの言葉に嘘はないだろう?名前…」
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