クレインと別れて私は眠る気にもならず、一人で林の入口へとやって来ていた。聖女の塔の一戦から余りにも色んなことがありすぎて、眠るどころではなかったのだ。



Episode:15 Past ties




倒木に腰を下ろし今までの事を何かを考えようとしたが、浮かんでくるのは全てクレインのことだった。
突き放したのに、私を一人にしないと、そんなもったいない程の温かい言葉をくれた。一人で生きてきた私にとってあの言葉は魔法のようだったが、その好意さえも今の私にはあまりに残酷すぎる温もりだ。
ぼんやりしていると背後から近づいてくる気配があるとこに気がつく。さほど友好的ではないようだが、殺気立っていることもないので、同盟軍で共に戦う者の一人だろうということは容易に推測できた。

「おい」
「…貴方は……」
「お前、さては殺し屋だろ?」

その声は、クレインと親しい傭兵。彼が何を知っているのかは分からないが、私のことをクレインに伝えてくれているかもしれないと思うと、不思議と自分の重荷が軽くなるような気がしていた。

「その間、肯定と受け取るぜ」
「…構わない」
「否定しないとは意外だな。いいか、もしクレインに危害を加えるなら…」
「そんなことしない!」

つい口調が強くなってしまったと後悔するも時すでに遅し彼の機嫌を損ねてしまったようで、剣を抜かれた。
私に抵抗する理由は何もなかった。ここで死んだところで後悔することはない。家族の元へ逝けるのだから。

「いっそ殺して。私にはもう生きる理由なんてないんだから」
「殺したいところだが、それはまたの機会にして聞きたいことがあるんだ」
「何?」
「お前自身、クレインをどう思ってる?」

彼の言葉で私の心臓は驚くほど動揺した。どう思っているかなんて、そんなの決まっている。大事なことは“どう思っているか”ではなく“どうするか”だと思っていたのだが、彼の望む答えはそうではないようだ。

「…それは…」
「あの坊ちゃんは両親に似てお人好しなんだ…誰にでも隔てなく、な」
「私には…彼の隣にいる資格なんてない。心配しなくても貴方の危惧する状況になんてならない」
「俺はお前を殺しはしない。確かめたかっただけだ。じゃあな」

彼――ディークはそう言うと私の前を去っていった。彼の言葉はまるで、私は殺す価値などないと言っているようだった。
彼が去った後、私の脳裏には今までのクレインの姿が浮かんだ。

「…苦しい……」

優しい笑顔、柔らかい声、温かい手。思い出せば思い出すほど苦しくなって、私は自分の体を腕で抱きしめた。
側にいたいと思うほど過去が蘇って、忘れることを良しとしてくれない。少しの甘えも許さないほど、私の犯した罪は大きい。


「…クレイン……私…」





「 名前 」





そこに現れたのは紛れもなく私の王子様、クレインだった。




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