星空は僕たちの頭上で変わらない輝きを見せていたが、彼女はその光にも気づいていないようだった。
君は一人なんかじゃない。上を向いて僕にその表情を見せてほしい。泣き顔だって、笑顔だって、何だっていいんだ。



Episode:19 The butterfly in the basket





僕は名前に空を見るように伝え、顔を上げたところで彼女を抱きしめた。
一人で泣かないで。君の隣には僕がいるんだから。

「名前となら何処にだって行けるよ。どんなに苦しい道でも構わない。乗り越えてみせる。そう思える人に出会ったのは初めてだ、名前。僕は生まれ変わっても君に会いたい」

「クレイン、私……私も……」

涙を乗せたその声は決して大きくなかったが、僕の耳にはしっかりと届いた。弱い肯定の意を確信へと変えるように、彼女は僕の背へと腕をしっかり回してくれた。

遠く離ればなれになってもまた会える、僕はなんとなくそんな気がしていた。僕もクラリーネも惹かれる人とは身分の違いがあるため、あの優しい両親がさぞかし困りながら喜んでくれるだろう様子が目に浮かんだ。

どんなに否定されても、君がいれば僕はどんなに辛いことだって乗り越えられる気がするよ。


「君以外には考えられない」

「…私も……だよ、クレイン…」


満天の星空の下、僕たちは互いに惹かれ合い優しく口付けを交わした。彼女の唇は柔らかく、まるで砂糖菓子のように甘かった。

それは僕たちにとって、まるで夢のような時間だった。この世界の平和を求めて戦っているはずなのに、この軍の解散を恐れている。終わってしまえば自ずと別れが来ることが二人とも分かっているからだ。
だが、僕はこの戦争が終わっても彼女と別れるつもりはなかった。


(君のことだ。目を離したら、何処か遠くへ行ってしまうつもりだろう?)


そうはさせない。何処までだって追いかけるけれど逃げられる前に、近くにいてくれるうちに捕まえてみせるよ。僕の蝶々はずいぶんと気まぐれに動き回るから、しっかり見張ってないとね。

「名前、ありがとう」
「えっ…何が?」
「僕のことを…好きでいてくれて」
「どうしてそんなこと言うの?お礼を言うなら私の方で、クレインは…」

君はいつでも僕を褒めてくれる。勘違いしそうになるほどに。《親の七光り》と言われないためにどんなに努力しても最終的には敵わない父という大きな壁。どれを取っても敵わない。そんな壁さえ簡単に越えてきてしまうのが君だ。
いつだって君の言葉は、僕の力になる。

「いや…僕は皆が思っているほど優秀な人間じゃないんだよ」
「そんなことない。クレインは私にたくさんの夢をくれたよ」
「夢…」

僕が君にあげた夢はどんな色をしているのかな。この星空のように光り輝いているだろうか。
そう考えて空を見上げると、ふと流星が僕達の頭上を通過した。この間に三回願いを唱えることは出来ず、僕はただその行方を見守ることしか出来なかった。

「クレイン?」
「名前、もう一度聞く。僕と一緒に…エトルリアに来てくれないか?」

二人の頭上で光った流れ星。誰かの夢や希望を乗せた輝く星は、嬉しそうに南の空へと一直線に向かっていった。




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