Episode:20 Timid wind





好きでいてくれてありがとう、なんて私の台詞なのに。クレインはいつもずるいんだ。完璧なくせに、そうではないと言う。こんな私を無条件に好きでいてくれて、過去を知ってもこうして隣にいてくれる。

クレインと一緒に過ごすのは夢のような時間だった。身分なんて、過去なんて何も気にすることなく共に隣で笑える、そんな時間。

「僕は皆が思っているほど優秀な人間じゃないんだよ」
「そんなことない。クレインは私にたくさんの夢をくれたよ」
「夢…」

その夢がいつの日か必ず消えることは分かっていたけれど、夢を見るのは自由だと言い聞かせてこの甘い空間を肌身で感じていた。
忘れないように。
離れても、ずっとこの思い出を忘れないように。

私が言葉と空気の余韻に浸っているうちに、彼が頭上の空を見上げていたことに気付いた。

「クレイン?」
「名前、もう一度聞く。僕と一緒に…エトルリアに来てくれないか?」

こちらを向いて紡がれた言葉。聞き返す必要などないほどしっかり聞き取れたはずなのに、もう一度聞けと脳が命令してくる。しかし私は彼に同じ台詞を言わせるつもりはなく、先ほどの言葉を頭で反芻していた。


エトルリアへ、一緒に。


この戦いが終わってしまえば、故郷がない私には帰る場所などない。また放浪の度にでも出るのだろうか。始まった頃はそれでも良かったのかもしれない。しかし、クレインと出会ったことで余計に、『終わってほしくない』と思うようになっていた。

この戦争を終わらせようと仲間が奮闘しているのに命を懸けているのに、叶わないと分かっていても心の隅にはそれを願っている自分がいて、非常に苦しかった。

私が答えを出すのにためらっていると、聞き慣れた懐かしい声がぼんやりと聞こえてきた。


「お姉ちゃん…なんで何も言わないの…?」


耳を疑って辺りを見回したが、それらしい影は見当たらない。それもそのはず、ソラはもうこの世にはいないのだから。


「ダメだよ…幸せにならなくちゃ。僕と、お父さんと、お母さんの分まで…幸せに……」


その言葉は、臆病になって縮こまっていた私の背中をふわりと押した。クレインと共に生きても良いのだと、幸せになっても良いのだと教えてくれた。

「…誰か来た?」
「えっ?」
「名前の表情が変わったから」

クレインは優しく微笑んだ。初めて会った時から不思議な人だと思っていた。私のことを気にかけてくれて、側にいてくれて。暗殺者として働いたことを明かしても、さほど驚かなくて。



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