Episode:21 You are in the dazzling world.


今だってそうだ。クレインは大事なことを言ってくれたのに、突然聞こえきたソラの声で私が辺りを見回しても、それを咎めたりしない。きっと彼には聞こえていないのに。

「ソラの声が、聞こえてきて、幸せになって…そう言われた」
「今日は星が綺麗に見えるからね。ソラくんからは僕達がはっきり見えるのかもしれない」
「本当…綺麗な星空…」
「名前はいつも下ばかり向いてるからね。たまには上を見上げて空を仰いだら、世界が変わるかもしれないよ」

冗談めかしてクレインが言うものだから笑ってしまって、私は彼に返事をしそびれた。後ろめたいことが出来てからは下ばかり見ていたというのは全くの無自覚で、言われてから初めて気が付いたのだ。
彼と一緒にいると、今までの自分がどんなに卑屈だったかと思い知らされる。

「それじゃあ、そろそろ戻ろうか?冷えると良くないしね」
「あっ、クレイン…あの…」
「エトルリアに、って話の返事なら、また今度でいいよ。もう少し落ち着いてから考えてもいいから」
「…ごめん…」

クレインの切ない笑顔を見て胸がチクリと痛んだが、返事はまだ言葉に出せずにいた。
ソラの言葉は大きかった。しかし自分の中ではまだ処理しきれなくてこうして悩んでいる。

彼と別れて天幕に戻ると、同室のスーは眠っているようで、私もその隣に横になった。一体どのくらい話していたのだろうか、長い時間だった気がするが、南の空はそれでも夜の帳を落としていたので私は安心して眠ることにした。

眠れないとばかり思っていたが案外素直に眠りに落ち、夢を見た。





そこは光に溢れた世界だった。私が生きてきた闇とはかけ離れた、暖かくて眩しい光の中の世界。目を閉じてもその柔らかさは失われることがなく、私は優しく明るい空間に酔いしれた。

「ごめんね。夢にまで出てきちゃった」

「ソラ…」

「お姉ちゃんが僕を守るためにしてくれたことが間違ってたなんて、誰にも言わせないよ。お姉ちゃんがいなかったら、僕は生きられなかったんだ。だから、もうそろそろ自分の幸せを願ってよ。お姉ちゃんの幸せが、家族の幸せだから…」

ソラの言葉は、私の心に強く響いた。ずっと心に引っかかっていたものがするすると解けるように、私の心の鎖は消えていった。
温かいものが私の胸の辺りを駆け抜けていく。これはなんだろう?ソラからの、家族の愛?それともクレインからの愛?

「ありがとう…私、ソラの姉さんでいられて、良かったよ。ソラのような弟がいて、本当に幸せだよ。ありがとう」

「僕ら家族の絆は何があっても無くならないし、どんなに離れてもそばにいる。見守ってるよ」

ソラはこの眩しい世界にいた。ずっと遠くで、私が手を伸ばしても届かないような距離にいた。声は鮮明に聞こえるのに、とても遠くて瞬きの間に消えてしまうのではないか、そう思うほど儚い存在だった。


「迷うことないよ。行ってらっしゃい、僕の大好きなお姉ちゃん…どうか…幸せに…」




目覚めると、隣にいたはずのスーの姿はなかった。随分と長い間眠ってしまったのだろうかと急いで天幕を出ると、陽はいつもよりはっきり輝いている。少し寝坊してしまったようだ。
遠くで誰かが鍛練している声と音が聞こえる。皆、この朝の時間を思い思いに過ごしているのが分かる。どうやら急いで進軍するわけでは無さそうだった。



間違ってなかったのだろうか。私があの時下した決断は本当に正しかったのだろうか。ソラの言葉を思い出す。
人を殺めたのは、本当に間違ってなかったのだろうか。



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