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Episode:22 Beyond the Sea Road
今となって答えは出なかった。
それで誰かの人生を狂わせたのかもしれない。全てが台無しになった人がいるかもしれない。それでも、私にも守りたい人が、救いたい命があったのだ。
天に昇っても尚、私を心配してくれる弟の優しさと温かさは消えることなどなく、ここにあった。
私は胸に手を当て自分が生きていることを確かめると、お姉ちゃん、と呼ぶ声が聞こえたような気がした。
私は自分の罪を背負い生きなければならない。奪った命のために、失った命のために。
「おはよう、名前。日が高くなったら出発するそうよ。聞いた?」
「おはよう、スー。ありがとう」
「昨日よりは元気そうね。顔色も良くなってる」
「えっ、そんなに顔色悪かった?」
スーは何を言ってるのと眉間に皺を寄せた。どうやら同室の友人には夜中に出歩いてたことも明らかのようで、昨夜のことにちらりと触れる言葉もあったが深くは追及して来なかった。程よい距離感で接してくれる彼女に感謝するしかない。
私達が次に足を踏み入れるのは懐かしい故郷とはもはや言い難い、寒冷の地イリア。
育ての家に寄る時間は無いだろう。いや、むしろ無くて良いのかもしれない。あの家は父と共に燃えてしまったのだから。
目を瞑って思い出すのは、優しい父と母の声。私とソラが日が暮れて帰ると、おかえりと優しく迎えてくれた母。遅い、と叱るのはいつも父だったか。そんな温かい両親の元へと、ソラと手を繋いで帰るのだ。
もう、昔の話。
武器の手入れや道具の整理に追われているうちに時間は過ぎていき、前方のリキア軍兵士から出発する旨を聞いたのは丁度太陽が高くなった頃であった。
「次の敵将は誰か聞いた?」
「いいえ。でも、イリアでクーデター派が蔓延ってるなんて想像できない。スーは聞いたの?」
「レーミー城に行くことは知ってるのだけど、それ以上は分からないの。名前なら知ってるかもしれないと思って」
「そう。ごめん、期待に沿えなくて。クレインに聞いたら分かるかもしれないけど…」
自然と出てくる彼の名前に驚いたのは私自身だった。スーはそんな私を見て少し笑っているようで、彼女に嵌められたらしいことに気付く。
愛馬に跨がる彼女を睨むと、スーは何のことやらとどこ吹く風で前を見据えていた。
「…スー、貴女…」
「だって図星でしょう?」
「……まあ…ね」
「早く行ってきたら?何があったか私には分からないけど」
結局スーに背中を押されつつも、進軍中に彼の姿を探すのはなかなか困難だった。なぜクレインの名を出したのだろうか。エトルリアと組む以上、もちろん彼の存在が軍にとって大きいというのは後付けの理由にしかならない。鈍感なスーに見透かされるなんて情けないと落胆しつつ、私達はレーミー城へと近付いてきた。
ヨーデル司祭の言葉を信じ、海の道を進もうとしていた私達はあっという間に戦乱に巻き込まれた。
そしてたどり着いた先の敵将はアルカルド、かつての私の雇い主だった。
「お前…見知った顔だな…!金は払う、お前の言う通りの金額を必ず払う!命だけは助けてくれ!」
「……私に命を懇願するの?なんて滑稽な貴族。私の知ってるエトルリア貴族は…もっと清らかで慈しみのある、美しい人」
「頼む…!命だけは…!」
「さようなら、アルカルド殿」
弓を構えて狙いを定める。矢を合わせて矢を放とうとしたが、弓矢の切っ先は見慣れた手袋によって阻まれた。
見慣れた革手袋と白い雪にも映える青い袖口はもちろん金色の髪の彼であった。
私はその事実にただ驚くことしか出来ずクレインの言葉を待つことしか出来なかった。
「アルカルド殿、僕はリグレ公爵家のクレイン。貴方のようなエトルリア貴族を野放しには出来ません」
「リグレ…!?お、お前、私を殺せば…一族を許しはしない!分かっているのか!」
「はい…。なので僕はここで貴方を救うつもりです。この弓で」
まさか、私の不安は的中しクレインの弓は一直線にアルカルドへと向かった。元雇い主はあっけない最後で、私の最愛の人の弓矢に倒れた。どうして、と問いただすためにクレインを探したが既に姿はなく、私は一人で元雇い主の亡骸と対峙していた。
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