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何故私を止めたのか、その理由が知りたかった。誰がやっても同じ結末のはずなのに、私の手を止めてまでクレインが討つ必要が果たしてあったのだろうか?
Episode:23 Cold gaze
あの時のクレインの顔は私が今まで隣で見てきたような優しい表情ではなく、宿敵を見据えるような冷たい目でアルカルド殿を見ていた。
「名前、どうしたの?遅れてしまうわよ」
「…ねえ、スー。クレインはどうして私を止めたんだと思う?」
「私には分からないわ。前にいる彼に聞かないと。ただ、貴女にさせたくなかったのではないかしら」
スーの指し示した先にいる彼は、何事も無かったように妹のクラリーネの横でいつもの笑顔を見せていた。かつての故郷イリアの地でかつての雇い主アルカルドと対峙したのは何かの縁だと思ったのだが、その妙な縁を私の手で断ち切ることは出来なかった。
(クレインは私に、アルカルド殿の裁きをさせたくなかった…。でもそれは、どうして?)
私の問いは言葉になることなくしばらくの間は静かに喉の奥で息を潜めていたが、戦乱に忙殺されているうちにいつしか消えてなくなっていた。
厳しいイリアの吹雪は軍の体力を奪っていった。私自身雪に慣れていると思っていたのだが戦いが続く中での大雪は予想以上に過酷であった。騎馬隊は歩兵の私たちよりも更に大変そうで、雪道に慣れていないスーやクラリーネをはじめとした部隊にはゼロットが付き添い、足場に注意して進んでいた。
「名前、どうだ?故郷の地に足を踏み入れたわけだが」
「どうって…。懐かしさ半分、息苦しさ半分といったところ?貴方こそ、慣れない雪に苦しめられてるんじゃないの?」
「まあな。シャニーから冬将軍の話を聞いてはいたが、直面するとなかなか簡単にはいかないもんだな」
「貴方のことだから、そんなことを話しに来たんじゃないでしょ?本題は何?ディーク」
雪のせいで視界が悪いため相変わらずクレインの姿は近くに見えない。不意に隣に現れた刺客は、ある意味私にとって一番の敵であった。正しく傭兵団として生きていた彼にとって、私のような過去を持つ人間とは相容れないに決まっている。
何を忠告しに来たのだろうか。彼の表情を伺うも、感情を読み取ることは出来なかった。
「そんなとこはやはり元暗殺者か、鋭いな。じゃあ遠慮なく。この戦いが終わったら、エトルリアに行くのか?」
「えっ…なんで…」
「あの坊ちゃんがしそうなことは分かるさ。なぜかお前に心底惚れてるみたいだからな」
驚いた私を見てため息をついたディークはやれやれ、という表情を見せた。クレインが私に惚れてるなんて表現をされるとも思ってなかったし、こんな風に、まるで仲間のように気さくに話しかけられるとも思っていなかった。
彼の予想外な言葉に怪訝そうな顔をしていたのか、ディークの方も、なんだその顔はと言わんばかりの呆れ顔を見せた。
「お前さん達の仲に今更口出しする気はねぇよ。ただな、俺の言ったこと…忘れるなよ」
「忘れた暁には私が屍になるってことなら分かってる」
「はは、軽口叩いてるうちは俺も安心だぜ。クレインを…頼むぞ」
貴方はエトルリアに来ないの?と言いかけて、私は口を閉ざした。これ以上軽率な言葉をかけて彼を傷付けたら、私はまた後悔する。伸ばしかけた腕を下ろし、雪道へと踏み出す足に力を込めた。気づいた時には吹雪は止んでおり、雪に埋もれる私の足も、くるぶしまで隠れるほど深くなっていた。
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