足を止めて空を見上げた。透き通った青い空と、慣れ親しんだ乾いた風が私を包み込む。



Episode:25
Return to "home" country




別れを告げた日とこんなにも全く違う気持ちで再びこの国へと戻ってくるなんて、あの日は思いもしなかった。
私が物思いに耽っている間にロイ将軍は何か指示を出したようで、リキア騎士たちがその伝達に走り回っていた。

「名前。ここにいたんだね」
「!…クレイン……」
「ベルン竜騎士の討伐が僕らの仕事だそうだ。この戦いは共に行こう」
「マードック将軍は私の命の恩人だった。ベルンは私にとって、最もまともに人間として生きた国だった。それを忘れてたの。ここに来るまで」

どうしてこんなことをクレインに話しているんだろう。一筋の疑問がさらりと私の頭に現れたが、それは留まることなく過ぎていった。自分がまともに生きた証を聞いてほしいのだろうか。それとも、この戦いに込めた想いを汲んでほしいのだろうか。私の中ではまだアルベルト殿を討ったクレインの姿が引っかかって頭から離れない。
そうとも知らない彼は何も言わずに私の言葉を一つずつ飲み込むかのように聞いていた。

「ごめん、今更こんなことを話して」
「名前にとっての故郷はベルンなんだね。イリアではなく」
「え…でも生まれはイリアだよ。どうしてそう思うの?」
「イリアの話をしている時はあんなに苦しそうだったのに、ベルンの話をしている名前はとても生き生きしていたから。ただそれだけだよ」

にこりと笑うクレインから嫌味は感じられず、私は余計に彼への疑念を強めた。何故あの時私の手を止めたのか、聞くべきか聞かないべきか迷ったが、器用ではない私は今更ここで疑問を留めるなど出来なかった。

「ねえ、クレイン。聞きたいことがあるんだけど、なぜアルカルド殿へ向ける手を止めたの?」
「……ああ…うーん…。改めて聞かれると何でだろう。咄嗟のことだったから、理由は覚えてないんだ」
「えっ?とっさに…?」
「うん。何故だろう…。名前の前で、格好付けたかったのかもしれないね」

拍子抜けする答えに、私は返す言葉がなかった。驚きを隠せずに目をぱちくりしてクレインを見つめていると、さあ行くよと彼に手を引かれた。
これからベルンの竜騎士、そしてマードック将軍と相対するというのに、私は目の前の金色の髪の青年の言動で頭がいっぱいになっていた。
咄嗟に?そんな簡単なことだった?

「今は目の前に集中しよう、名前。この話はまた今度だ」
「それは…そうなんだけど…」

本当は真意が気になったのだが、竜騎士の猛攻でクレインの言葉通り戦いに集中せざるを得なくなり、あちこちから攻めてくる竜騎士達に対し私達は背中合わせで戦った。
騎馬隊を殲滅するのに必死の部隊を遠くで見ていたので回復薬を貸し借りすることもあった。その度に手袋越しに触れる指。
私はクレインに掴まれた手首を思い出す。
あれは自分が不甲斐ないが故に全てを終わらせようとしていた時のことだった。クレインに助けられたからこそ、今こうして隣で彼を助けられる。

「ねえ、クレイン」
「何?」
「ありがとう。本当に…ありがとう」
「それは…僕の台詞だよ、名前」

いつ死ぬか分からない戦場で出会った彼に感謝を伝えておきたかった。この戦いでどちらが死ぬとも限らない。ベルンの猛攻もかなり厳しくなってきている。少しは耐えられても、集中的に攻められれば多少防御に自信があっても勝ち目はない。

「大丈夫。死ぬ時は一緒だよ」
「え…?」
「いや…何でもない」

まるで心を覗いたのかと思う言葉はしっかりと私の耳に届いていた。戻れない過去は私にいつまでもまとわりつくだろう。この軍でどんな功績を上げたとしても、それは変わらない。
それなのに、どうして心の底がこんなにも温かくなるのだろう。




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