第3章 再会



第3節





「お父さん、コンウォル家について教えて。何があったのか、何が起こったのか…」
「本名、いい加減にしなさいと…!」
「違う!私は手紙を見たの!とぼけないで教えて」
「て、手紙…!?お前、まさか…!」

父がコンウォル家当主に宛てた手紙は封もされることなく彼女の家に眠っていた。それは投函することも出来ず、行き場のない後悔や謝罪の念が篭っているのであろう。しかしたとえそうだとしても彼女には許すことの出来ないものだった。

「お父さんの書斎にあったものよ…!」

幸せ慣れした本名にとって、このことを家族に突きつけるのは決して簡単なではなかった。しかしこの話題で家が壊れるくらいなら壊れてしまえばいい、と本名は思っていた。

「お父さんは、コンウォル家に…何をしたの?」
「本名……座りなさい。私が全てを話そう。あれは数年前…そうだな、4年程前だったか……」

フォルヴェン家は所謂“成り上がり”の中流貴族で、彼らの繁栄を良く思わない貴族達によってある時は仕事の幅を狭められ、ある時は資金繰りに窮する事態に直面した。その時に金を借りた相手がコンウォル家であったのだ。彼らは優しく、困った時にはいつでも言うように彼女の父へと声をかけた。
そのような経緯があり彼女の父は社会的に弱くコンウォル家に頼ることが度々増えていたのだが、娘を自分と同じように弱い立場にする訳にはいかないと躍起になってしまった。

「お前を守りたかったというのが綺麗事だとは分かっているんだ…。それでも、それでも私は……」

申し訳なさそうに頭を垂れて話す父。こんなに小さく見えたのは初めてだ、と本名は思った。

コンウォル家に金を借りながら生計を立てたことで少しずつではあるがフォルヴェン家に復調の兆しが見えてきた一方で、コンウォル家には災厄が降り掛かっていた。

「コンウォル侯は本当に優しい方々だったから私たち以外にも金を貸していたようで、早急に返してくれないかと頼まれたのだが…」

言葉を濁す父の様子で、フォルヴェン家が金を用意出来なかったことは明らかだった。父の性格だ、余った金で見栄を張ったのだろうと彼女は察した。
散々世話になっておきながら、窮地に陥ったコンウォル家を助けられなかった悔しさと情けなさが募り本名は奥歯を噛み締めた。

「それで…コンウォル夫妻はなぜ…」
「他に金を貸す一方で、金を借りていたそうなんだ…。それに気が付いたのは……」

彼女の父は再び口を噤んだ。つまり金を貸しながら金を借り、首が回らなくなってしまったのだ。それだけで命まで絶つ必要があるのかと本名は疑問に感じたが、目の前で項垂れる父がコンウォル公爵夫妻を陥れた要因になっていることは確かなのだ、と首を振った。

「あの方々は同盟の資金を横領した嫌疑をかけられてしまったのだ…。そしてその罪で身分を落とされ、自ら命を…」
「そんな…!お父さんが証言すれば改易させられずに済んだのじゃないの!」
「あの頃の私は今のように周囲から認められてはいなかったのだ…!そんな証言をすればこちらは改易では済まされない!」
「そんな言い方…!」

父の言い分が分からない本名ではなかった。中途半端な低級貴族が口を出したところで覆るような嫌疑では無かっただろうし、そうすればフォルヴェン家が崩壊してしまう可能性の方が高い。父はそれを恐れて口を閉ざしてしまったのたろうと。
それでも彼女は許せなかった。世話になっておきながら見て見ぬふりをするなんて。
もう一度父を責め立てようとした瞬間、母が彼女の腕を掴んだ。

「ごめんなさい…。ごめんなさい、本名……。お願いだから、もうお父さんを責めないで…。お願いよ、本名……」
「お母さん……!でも、私は……」
「お父さんが一番苦しんでるのよ……だから、もう……」

本名は縋り付く母を剥がして両親へ背を向けた。信じられないと言うべきか、我慢出来ないと言うべきか、彼女には分からなかった。とにかく恩知らずな両親の発言が理解出来ず、本名は家を飛び出した。

「ごめんなさい、ごめんなさい、レイモンド……!私は、どうしたらいいの…!貴方に会いたい、叶うことなら、貴方を守りたい…!」

命を懸けて貴方を守りたい。
貴方の両親を守れなかった代わりなんてそんな無責任なことは言えないけれど、それでも守りたいと思った。



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