第3章 再会



第2節




本名が背を向けて去っていくのをレイヴァンは茫と視界に入れていた。いつか会いたいと願っていた人物に再会出来たと同時に、その人物の家こそが彼の人生を狂わせた敵であった。
何故、どうして、そんな疑問が泡のように湧いては消えた。悲しみを湛えた瞳を向ける本名の表情が頭から離れない。憎むべきはこちら側なのに、なぜお前がそんな顔をするのだとレイヴァンは行き場のない思いを乗せた拳を壁へと叩きつけた。

「っ…!」

手を離すとぱらぱらと壁面が剥がれ落ちるのを見て、レイヴァンは嘲笑を浮かべた。憎むべき仇相手が初恋の女性など、駆け出しの小説家でも思いつくような話だ。なのにそれがまさに現実として今、彼へと降り掛かっている。

「俺は今まで…何を……」

妹と離ればなれになり、両親を亡くした。その要因が全てフォルヴェン家にあるとして、本名を心から憎むことが出来ない自分が情けなかった。なぜ彼女が目の前に現れてこんなにも心が揺さぶられるのか。彼は自分の気持ちを認めたくない半分、未だに彼女への想いが消えていないことに気付いた。

彼女のことを思い出すと決まって浮かんでくるのは笑顔だった。レイモンド、と楽しそうに名を呼んだと思えば、ほら、早く!と手を引かれて彼女の家へと訪れる。あの時の笑顔は今でも彼の中に生き続けていた。

しかし再会した彼女には、彼の記憶の中の笑顔は一切なかった。「私を殺して」と言う本名の表情を彼は苦しげに思い出した。あんな顔させたくない。そのためにはどうすれば良いのか。

彼には分からなかった。
フォルヴェン家がコンウォル家に対して行った裏切り行為は変わらない。それが一つ一つはたとえどんなに小さいものだとしても、その一つが原因で彼の家は散り散りになった。その事実が変わることはなく、それが彼や本名の心から無くなることはない。

それでもこんなにも苦しいのは何故か。



簡単に割り切れない、とルセアに説教をしておいて自分は真実を受け入れられずにいるなんてどうしようもないではないか、とレイヴァンはため息を吐いた。
オスティア侯ウーゼルを復讐の相手だと決めつけて生きていきたこの2年は、一体何だったのだろう。そして彼が憎むべき本当の相手は、彼がかつて胸を焦がした彼女の家。

「何故だ……なぜ、お前なんだ…!」

復讐する相手のことなど知ったことではない、誰でも良かったはずだった。なのに、何故。
怒りと苦しみと愛しさが入り混じって感情がねじれているのが分かる。自分でも今、彼女にどんな気持ちを抱いているのか、抱いて良いのか分からない。

憎めばいいのか。
許せばいいのか。

今はどちらとも難しい、とレイヴァンは感じた。許すことは出来ないが、かと言って憎むことも出来ない。

いつの間にか空には夜の帳が落ちており、その暗闇はレイヴァンの心を落ち着かせ、彼を感情の渦から掬いあげた。
このままでは何も終わらない、何も変わらない。そう分かっていながらレイヴァンは重い足取りでその場から立ち去った。



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