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第3章 再会
第4節
レイヴァンは与えられた天幕に戻り彼女の言葉を頭の中で反芻させ、一つの結論を導き出した。それは二人にとって残酷なものだったが、彼に他の選択肢を見出すことは出来なかった。そして夜が明けた時に彼女へ伝えに行こう、と決意して冴え渡る眼を閉じ、強制的に眠りへと導いた。
忘れもしないあの日。雲一つない空に浮かぶ、強い光を放つ北極星。流星群は彼らの望み通り訪れた。
隣にいる本名の表情を伺うと、彼女は静かに涙を流し、謝罪の言葉を口にしてレイヴァンの瞳を見つめた。
貴方の苦しみを拭い去るために、私は何をすればいい?という彼女からの問いに答えられずにいると、次第に本名の姿が薄くなっていることに気がついた。
待ってくれ、行くな、とレイヴァンが必死に止めても彼女の姿が消えゆくのを止められはしなかった。
俺が許せば戻ってきてくれるのか?俺が全て忘れれば、お前は消えずに此処にいてくれるのか?答えてくれ、本名…!
「……様、レイモンド様!」
「……ルセア…?」
「魘されてらっしゃいましたが……大丈夫ですか?」
「ああ…問題ない」
心配そうな視線を向けてくるルセアから逃れるように体を起こして外へと足を踏み出すと太陽の強い光が彼を出迎え、眩しさにレイヴァンは目を細めた。
誰が死んでも世界には変わらず朝が来る、そんなことを言った小説家は誰だっただろうか。父と母が死んだ次の日も間違いなく太陽は昇り、大地を照らした。何も知らない人々は笑い合い、何も変わらない日常がそこにはあった。ただ一つ、両親がいないということを除けば。
「俺は一体、何の夢を見ていたんだ?」
思い出したくとも思い出せない、何か大切なものを掴みかけたがすり抜けていくような感覚の残った掌が不快で、彼はそれを強く握りしめた。
まもなく進軍の準備が整うとルセアに教えられ、彼は照りつける太陽を睨みつけて背を向けた。
夢の内容は分からずとも、昨晩決意した意志を忘れてはおらず彼は本名の姿を探したが彼女は何処にも見当たらなかった。
それに疑問を抱きつつ居所を尋ねようとウィルの姿を見つけたが、彼は声をかけるのを止め、直ぐに会うはずだと伸ばしかけた腕を降ろした。
「よぉ、レイヴァン!」
「なんだ、ウィル。俺に用か?」
「何もねぇけど、いつも以上に怖い顔してるからだよ。何かあったのか?」
「いや…何も無い」
あー、もしかして…と口角を上げたウィルの口から飛び出したのは彼女の名前だった。レイヴァンは驚いて彼を見返すと、ほら見ろ図星だろと得意げな顔を見せた。
まさかウィルが自分の立場はおろか彼女との関係をも知ってしまったのか、とすかさず詳細を尋ねた。
「おいおい、本当に怖い顔すんな!でもレイヴァン、残念だったなー。新入りの偽名には想い人がいるんだってさ」
「想い…人?」
「それが何でも幼馴染の人で、その人から剣を教わったんだって話だ。いいよなーあんな美人、なかなかいないしなー」
「幼馴染……」
レイヴァンの心配するところの見当は大きく外れていたが、その幼馴染みという存在には心当たりがあった。もっと詳しいことを知らないかと素知らぬ振りで尋ねると、ウィルは意気揚々と彼女のことを語った。さてはレベッカという女弓使いから聞いたのだろう、とレイヴァンは想像しつつ彼の話を聞いた。
「強くて優しい人だ、って懐かしそうに話してたってのは聞いたけど、俺もそれ以上は知らないな」
「そう…か。問いただして悪かったな」
「え、おーい!待てよ!何だったんだ?レイヴァンのやつ…。本当に偽名と何もないのか?」
首を傾げるウィルを残して、レイヴァンは逃げるように足早にその場を去った。心臓の鼓動が警鐘と思えるほどに煩く鳴り響いている。皆の集まる場所から少し離れて、彼は深く呼吸をして高ぶる気持ちを落ち着かせた。
そう、あれは紛れもなく彼のことだったのだ。
強剣が達者で、強くて優しい彼女の幼馴染み。
「本名……」
呟いた名は、昔のようにほろ甘い言葉となって彼の足元へと滑り落ちた。
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