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第3章 再会
第8節
進軍の速度は変わらない。流星群が空を舞おうとも、夜が開けると一日は同じようにエレブ大陸へと朝を告げ、太陽が顔を出すと暖かな光が惜しみなく大地へ注がれる。それはいつの時代と同じ景色だ。家族で過ごしたあの日も、一人になった今も、同じように年月は過ぎ行く。いつまでも堂々巡りなのは自覚していた。虚しさを感じないように自分を追い込んだが、ここまでか、とレイヴァンは目を覚まして気怠い頭を覚ますべく窓を開けた。
10年後の流星群も一緒に見ようという約束。
儚い約束がこんな形で果たされることは決して望んでいなかったが、疎遠になっていた本名と再会してその瞬間に立ち会えたことは幸運だったのかもしれない、とレイヴァンは息を吐いた。エリミーヌ教を信仰している訳では無いが、女神の思し召しと思えばそうなのかもしれない、と彼は語り継がれる偉人の姿を脳裏に浮かべた。
「レイモンド様」
「ルセアか。なんだ?」
「いえ…昨夜は……流星群がとても美しかったですから…」
「ああ、1年早く訪れたそうだな」
ルセアは意外な顔をしたが、彼のその一言で察したのか、そうですねと言ってレイヴァンの部屋を後にした。レイヴァンが流星群に関して詳しいとは到底思えない。恐らくそれは本名の知識によるものだろうとルセアは推測したのだ。つまり、昨夜2人は出会っていたのだろうと。
時間が止まってしまえばとレイヴァンは昨夜思っていたが、このまま止まれば彼女は永遠に過去に取り残されることになる。まずは自分の意志をもう一度伝え、彼女が未来へと進んで行けるよう背中を押さなければ、と武具を身につけて階段を降りた。
目当ての人物は直ぐに見つかった。本名はいつも通りの表情でレベッカと会話しており、時折笑顔も見せている。自分と話す時もこうして笑ってくれれば良いものを、それが出来ない環境に彼女を縛り付けているのは自分の方なのかもしれない、とレイヴァンは2人を横目に乏しい朝食が用意された炊き出しの場所へと向かった。
「よぉ、レイヴァン!昨日の流星群見たか?凄かったよなー!空がキラキラ〜って!魔法みたいだったよな!」
「ああ、そうだな」
「なんだよ、本当に見たのか?あの感動は見ないと分かんないぜ〜!」
「見たと言っているだろう」
朝からうるさいやつだ、とウィルを躱そうとも彼もまた昨夜の流星群の話題で頭が沸騰しているらしく、その話しか振ってこない。だが、うるさいウィルだからこそ気が紛れて良いのかもしれない、とレイヴァンはその会話に付き合うことにした。ウィルは擬音語と身振り手振りを交えて美しさや壮大な星を語っていた。それに相槌を打ちながら、彼もまた昨夜の空を思い返していた。9年前より少し雲が多かっただろうか、あれは森に居たせいだろうか、あの時よりも湿気が少なく星が粒だって見えた、などと。
「おい、聞いてるか?」
「ああ、聞こえている」
「聞こえてるって、そりゃ聞いてるに入んねーよ。んでもあんな星が来るって分かってりゃ、少しは俺も……」
「なんだ?何か企む気だったのか?」
「あー…いや、何でも……」
突然歯切れの悪いやつだ、とレイヴァンがウィルを一瞥すると、お前いま鼻で笑ったろ、と抗議の声が上がる。過去に囚われずに誰かと会話すると穏やかな気持ちになるのが紛れもない事実であることはレイヴァン自身がよく分かっていた。とはいえ、本名とウィルは違う。同じ感情で会話が出来るほど過去を飲み込めてもいなければ、清算できた訳でもない。
レイヴァンが静かに息を吐いて席を立つと、俺もそろそろ進撃の準備しなきゃな!とウィルも立ち上がった。
本名に話をしなければならないと思えば思うほど話しかけづらく、また彼女自身もレイヴァンに近寄ろうとはしない。だが、いざ戦闘が始まると最早そんなことは問題ではなく、誰であろうと味方同士で互いに守り、勝利のために攻める。時折本名の姿が見え隠れするのを感じながら、レイヴァンも目の前に立ちはだかる敵へと向かってい行った。
信念を持って道を切り開く者。主君のために命を懸ける者。仲間の無念を晴らすために前へ進む者。自分のように迷いながら戦う者。この軍には様々な思いを持って戦う者が多くいる。人それぞれ違うものだとしても、こうして集結すれば強大な敵をも倒すことが出来る。
「おい、ボサッとすんな!魔法が飛んでくるぞ!」
「ああ、分かっている!」
「行くぜ!」
オスティア侯ヘクトルには誤解が解けたとはいえ、まだわだかまりが少なからず残っている。だが本人はそんなこと露知らず、レイヴァンを鼓舞すべく声を掛けてきた。こいつは間違いなく信念を持って戦う者だと考察し、彼は同時に自分の浅はかさに気が付いた。ヘクトルと対峙したところで何も生まれはしない。真実がどうであれ、強い信念に惹かれてこの軍に加入した者も多くいるという話だ。悔しいが今はそれがよく分かる、とレイヴァンは剣の柄を強く握った。
「見届ける他ない、か……」
「なんだって?うわっ!危ねーな、あの賢者サンダーストーム持ってるのかよ、厄介だな」
「ウィル!あの賢者なら、さっきフロリーナが倒しに行ったよ!」
「おぉ!よかった!これで俺らも安心して進めるぜ!な、レイヴァン!」
ウィルもレベッカも、リキアの侯爵家に従ってこの戦闘に参加している。報酬や地位はもちろんあるだろうが、それ以上に平和を求めて戦っているというのだからレイヴァンは驚いた。村を守りたい、自分の家を守りたい、そんな気持ちでここまで戦えるものか、と。
俺の信念が間違っていたと思うしかない、とレイヴァンは威勢よく進軍した。この者たちと出会えたこと、本名と再び出会えたこと、自身の間違いに気付けたこと、様々なことに感謝しながら。
「ああ、そうだな。勝とう、ウィル」
「えっ…」
「なんだ。何か言いたげな顔だな」
「いや…そんなこと初めて言われたから…お前もそんなこと言うんだな…!俺感動したぜ…!」
なんだこいつは、とレイヴァンは口角を上げて迫り来る敵へと向かった。本名にも自分が心に秘めるこの感情を全て話すことを心に誓った。そのためには生き残らねばならない。自分も、彼女も。
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