09



なまえと研磨のすれ違いは解消し、再び彼らはいつも通りに戻っていった。なまえ達は音駒バレー部の練習を手助けすべく、撮影した動画をパソコンへ取り込み、サーブやトスの角度や位置取りなど様々な部分を分析していた。
頭脳明晰な彼女たちの学業の傍らに行う作業にはうってつけで楽しんで解析を行っていたが、なまえは研磨のサーブを飛ばして犬岡のデータへと手を付けようとしたところ、隣の友人がそれを覗き込み、あれ?と疑問を口にした。

「研磨くんのやらないの?」
「え…やりづらいからやってよ」
「なんで〜!?私は衛輔のデータやりたいよぉ〜」
「だって直接解説しなきゃいけないじゃん。研磨にちゃんと言える気しないし」

解析した人が本人に説明をすることになっており、角度や高さの平均と成功率やボールの回転率など現状を報告、理想の状態も同時に提案し、本人と黒尾と監督が練習に組み込むかどうかを決定することになる。
今までは彼の解析も行っていたが今の関係になってからは一度もしていない。なまえ自身が音駒に行っていないのもあったが、自然に話せるとは思えない、と彼女は研磨の顔を思い浮かべた。

「でも研磨くん、なまえが犬岡くんに説明してたらそれはそれで妬きそうじゃない?」
「ヤキモチ妬きっぽいもんね〜」
「あー…2人ともそう思う?」
「むしろ思わないの?なまえの話聞いて磨くんの印象変わったもん!鉄朗から聞く話と全然違ってビックリ!」

そう語る友人は黒尾と交際しており、インターハイで出会ってから早数ヶ月経つ。彼女達の関係が全ての発端だったこともあり、音駒バレー部を統括するキャプテンの黒尾と付き合っていることもあり部内のことはよく知っている。今までの研磨の印象がどんなものだったのかと聞くと、超人見知りな可愛い弟みたいな子と彼女は笑って答えた。

「でも今はなまえの周りの男子を牽制する獣って感じ?」
「何それ、獣?」
「あはは、わかる〜!めっちゃ睨み効かせてそう、特に猛虎くんとかに!」
「鉄朗にもしてるよ絶対!」

盛り上がる2人を他所に、なまえは研磨の様子を想像した。確かに付き合う前は彼女達が体育館にいようがいまいが彼の行動はあまり変わらなかっただろうが、付き合った今、久しぶりに音駒に行ったらどうだろう。きっと久しぶりと部員の皆が話しかけてくるだろうし、特に黒尾はこの前のことを話してくるかもしれない。そんな自分の姿を見て研磨が妬くのかと思うと、それはそれで悪い気はしないかも、となまえは頬を緩ませた。

「何笑ってんの〜もぉ〜惚気〜」
「いや、研磨はヤキモチ妬くかなぁって」
「絶対妬くよ!なまえ、またお家に連行されないように気をつけてね」
「もうやめてその話…超恥ずかしい…」
「研磨くんも野獣だから気をつけないとねなまえ〜!」

自分で言い始めて、研磨くんが野獣ってギャップめっちゃヤバくない!?と盛り上がる友人。確かにその通りではあると頷いて犬岡の解析をしながら彼女達の会話を小耳に挟む。すると黒尾は見た目も野獣だし中身も野獣、と見た目と中身のギャップについての話になった。
研磨の中身も野獣とのこと。無論彼の野獣の姿を見たのはなまえだけなのだが、それを話してしまった故に2人から野獣扱いをされる羽目になっている。

「黒尾と同じ扱いは酷くない?」
「え、なまえは鉄朗のことなんだと思ってる?それも酷くない?」
「付き合った初日に手出してくる人は野獣ですぅ〜」
「ちょ、やめてってば!じゃあ夜久は?」
「衛輔は凶暴な飼い猫って感じかな〜?」

凶暴っていうのがやばいと3人して笑った。野獣まではいかないが野生の雰囲気漂う、だがその中でもしっかりしているので飼い猫なのだと。野生猫のボスかもしれないけど、友人は言う。好きな人を凶暴と例えるのもどうなの、と笑いながら指摘すると絶対に秘密にしてねと釘を刺される。そして話は音駒バレー部全員に及ぶ。

「海くんは野生猫だよね〜?飼い猫ぶってる野生猫!」
「わかるー!猛虎くんは野獣に見えて中身は猫ちゃんだよね!可愛いもん!」
「はは、2人とも上手すぎ!」
「それで研磨くんはちょ〜可愛い子猫ちゃんに見えて本当はガオー!でしょ?正反対すぎてウケる〜!招平くんは?」
「え、招平難しくない?飼い猫かな?」

その後も、リエーフはトイレ覚えないから飼い主に怒られる飼い猫とか、犬岡は猫と言うより犬だけど野生っぽいとか、芝山は飼い猫とか、3人で勝手に音駒バレー部を猫に例えて話題にして楽しんでいると、ずいっと体を前のめりにしてニヤリと微笑む友人。何事かと顔を上げて怪訝な顔をすると、研磨くんが黒尾と同じ野獣なんて見かけによらないよねと彼女は言った。

「な、何…突然」
「なまえは研磨くんにメロメロだよね〜。私も研磨くん可愛いとは思ってたけど…まさかそんな野獣だったとはねぇ〜…」
「研磨に余計なこと言わないでね」
「大丈夫、外から見て楽しんどくから!」

ふふ、と笑う友人を見て口を尖らすなまえに、恋する乙女〜と言って彼女はパソコンに打ち込みを始めた。最近は毎日研磨のことばかり考えている、となまえは思った。何をするにもどんな時でも研磨のことが頭に思い浮かび、その度に友人に指摘される。よく考えていることが分かると感心すると、その時も恋してる顔してると言われたのを思い出した。

「私そんな分かりやすい?」
「うん、分かるよ?研磨くんのこと考えてるんだろうなって」
「そーそ、前までの彼氏とは全然違ったし、だからこそ研磨くんとはラブラブでいて欲しいな〜って思ってるよ」
「そっか…」
「私たちは見てて分かるけど、研磨くんは鈍感そうだしなまえは溜めちゃうんだから、ちゃんと2人で話してね」

鉄朗も私も出来ることはするしと微笑む友人に感謝の意を述べて、そろそろカフェのバイトの時間が近付いていることを伝えてパソコンを片付けて荷物をまとめた。携帯を見ると、これから部活と短いメッセージが入っているのがわかる。たった一言でも回数が少なくても毎日何か送ろう、というのがなまえと研磨の決め事だった。でないと再び互いに連絡不精になってしまうだろうという研磨の提案でそう決まったのだが、確かに2人のやり取りは恋人とは思えないほど淡白だった。

「研磨くんから?」
「うん、これから部活だって」
「えっ!それだけ?」
「まあ…研磨頻繁に連絡取るの面倒って言ってたし、ほとんどメッセージでたまに電話かな」
「なまえって研磨くんのことになると突然遠慮がちっていうか気を遣いすぎというか…なんか石橋叩きすぎて割りそう」

何それとあからさまに不満な表情をすると友人はさも当たり前のように、そういうところも今までの人と違うんじゃない?と言う。研磨に嫌われたくないという気持ちは間違いなくなまえの中にあり、それが今までなかったかというと否定も肯定も出来ない。きっと研磨だから不安になることもあるし、安心することもある。それが今まで付き合ってきた人とは違うだけと友人へ答えると、納得いかない顔をされる。

「違うんだよ、そうじゃなくて」
「だから何が言いたいの」
「なんて言うか、なまえはたぶん自分で思ってるよりもずーっと研磨くんが大好きなんじゃないかな」
「そうそう、素直に伝えなよ〜。飾る必要ないって」

飾らないで嫌われても責任取れないでしょ、となまえは2人に伝えて席を立った。2人は顔を見合わせて何かを話していたが聞く気にはならなかった。研磨に嫌われることを想像すると怖いと感じる自分がいる上、素直な彼のことだ、そういうなまえは嫌いと言いそうだから余計に彼女の不安は募る。

「う…アドバイス逆効果だったかも…」
「なまえのことだから一人でぐるぐる考えちゃいそうだし、私研磨くんに連絡しとく〜」
「フォローよろしく…」
「はいはい任せて〜。そっちはテツローくんにでも慰めてもらってくださーい」

ポチポチと携帯を打つ友人に感謝を告げて彼女はなまえの背中を探したが、彼女は既に帰り道の学生たちに紛れて見えなくなっていた。




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