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>孤爪家での出来事を友人に話すと、2人は嬉しそうにその話を聞いてくれた。研磨くんイケメンすぎてギャップが…とウキウキしている友人の発言に笑ったり、彼女が夜久と交際を始めたということで祝杯だと言ってジュースで乾杯したり、いつもより世界が明るいような気がする、となまえは心が温かくなるのを感じた。
「てかさー、もう春大予選始まるじゃん?てことは私達も受験モードだよねぇ〜ヤダな〜音駒行きたい〜」
「英語余裕の人がよく言う!」
「ほんとほんと。でも現実逃避に音駒行くのはなんか違うし…ね」
「向こうは向こうで本気でバレーやってるし、遊びに行くみたいで気が引けちゃうよね…。でも会いたいし鉄朗のバレー見たい…2人もそうでしょ?」
進学校の3人のサポートは春大予選までという期限付きでその成果は十分に発揮されていたのだが、恋人がいる音駒高校に行きたいというのは本音で、3人は大いに悩んでいた。無論彼らがこちらに来るという選択肢も無きにしも非ずだが、私立の女子校の近くに呼び付けるのは気が引けるし、何より部活で放課後忙しい彼らを呼ぶのは違うと3人とも考えていた。
「あ、じゃあとりあえず文化祭呼ぼうよ〜。ちらっと衛輔に話したんだけど、まだ予定わかんないって言われたんだよね」
「それいい!練習かもしれないけど…ちょっとだけ来れたりしないかな」
「めちゃくちゃ目立ちそうだし研磨が嫌がりそう」
「他校の男子来て盗られちゃうかも…って刷り込んどけば絶対大丈夫来てくれる!」
「研磨に変なこと言わないで」
クラスの出し物はフローズンドリンクのカフェになったのだが、流石は女子校というべきか、男装カフェとして当日を迎えることになった。クールななまえは男装が似合ってはいたが背が低いのが玉に瑕だと友人に言われて眉を顰めた。来るかもしれない音駒の皆には秘密にしておいて、もし来られなかったら写真を送ればいいということになり、なまえも研磨に男装カフェであることは隠していた。
9月末に開催されると知らされた文化祭。音駒高校男子バレー部員は悩んでいた。女子校の文化祭のチケットを入手するなどどんな困難なことか。それこそ人生に1回あるかないか、これがどれ程のチャンスかというと全国大会に出場出来るのと同じくらいだ、と猛虎は燃えており、犬岡やリエーフも隠しきれないほどソワソワしていた。1人3枚のチケットを与えられたなまえ達はクラスメイトに頼んで余りのチケットを分けてもらい、音駒バレー部の全員を誘ったのだった。黒尾は落ち着きのない部員の様子を見て、仕方なく朝を早くする分早く上がることを監督に提案して何とか14時には終わるようにこぎつけた。
文化祭の催しは大体15時には終わるという言葉通り、彼らが到着する時にはほとんどのスケジュールは終わってしまっていたが、まだ辛うじて続いているところもある。ビル街の大通りに面した入口を潜ると、彼らは感嘆の声を漏らした。
「うわ、すっげぇ…壁がピンク…」
「研磨…!見ろよ、女子しかいねぇ…!!」
「女子校なんだから当たり前でしょ」
「おめーらB棟探せよー。お、電話かかってきた。もしもーし、着いたぜー」
あちらこちらと視線を送る下級生を黒尾が引っ張ってひとまずB棟の矢印を目指して進んでいると、彼女から電話が来て迎えに来るとのことだったので一行は開けた場所で待つことにした。その間にも至る所から視線を感じ、研磨が辺りを見回すとあちらこちらで生徒がこちらを見てコソコソと話しているのがわかる。無理もない、赤いジャージの男子の軍団が突然女子校に現れたのだ、興味を持つに決まっている。
「わぁ凄い目立つ〜!いらっしゃい!音駒バレー部御一行!」
「お、来た来た。すげー盛り上がりじゃん!」
「ここめっちゃ見られるから早く行こ…」
「ただでさえ男子は少ないし、赤ジャージは目立つね。なまえが研磨くん大丈夫かなって心配してたよ」
「あれ、なまえは?」
「お店番!楽しみにしといて」
バチンとウインクする彼女の友人に一抹の不安を抱えつつ、研磨達はなまえの教室へと向かう。10人一気に入れるかなぁという言葉と共に中に入る2人を見送って一同が店名を見ると、そこに書かれているのは“男装カフェ”という文字。何事かと思って部員が固まっていると、中から出迎えたのはなまえその人だったのだが、その格好に研磨は目を見開いて息を飲んだ。
オールバックにポニーテールで髪をまとめ、かっちりとタキシードを着こなし薄づきのメイクをしている。いつも見る彼女とは打って変わった姿に興奮して騒ぎ出したリエーフや猛虎を夜久が制した。
「いらっしゃいませ、ご主人様。びっくりした?」
「う…うん」
「ふふ…。お先に4人ご案内致しますね。どうぞ」
「先、夜久と海とリエーフと手白な」
「なんでもう決まってるんスか!?」
これ以上騒ぐなよと夜久がリエーフに睨みを効かせると、うなだれながらもリエーフは従い、4人は教室の中へと入っていった。研磨が黒尾を見ると、ニヤリと笑って次の3人は俺と犬岡と芝山な、と言うのでなんでその3人なのかを聞くと、彼女持ちは別々のグループにしないとろくに注文も出来ないだろと言うので最もだと研磨はその答えに納得した。
猛虎が研磨を小突いて来るので面倒臭そうに応えると、興奮した様子で話し始めるので他人のフリをしたかったが同じジャージを着ているとそうもいかない。
「やばかったな、なまえさん…!!」
「虎、鼻息荒いのキモイ」
「男装どうだんしょ?」
「福永、おれツッコミ無理だから。自己完結して」
彼氏どれ?と聞かれたなまえは、クラスメイトにまだ入って来てないことを伝えると、彼女は浮き足立って外に待っている3人を中へと入れた。黒尾が手を挙げてくるのでそれに応えると、クラスメイトが嬉しそうに#彼とbk_name_1#を交互に見ているので違うよと言うつもりでうつむき加減に首を振る。
すると小走りに駆けてきて耳元で背高いねと嬉しそうに言うものだからなまえが苦笑しながら頷いていると、黒尾が席に着いたのを見てなまえの友人である本物の彼女がそのテーブルに着いた。
「鉄朗、何飲む?」
「お前…男装似合わないな」
「鉄朗は水道水ね。犬岡くんと芝山くんは?アイスティー?」
「そ、それで大丈夫です!」
「待て待て似合ってますぅ〜!」
あのトサカ頭の彼女はあっちだよと4人の様子を指し示すとじゃあ誰なのかと爛々とした目を向けてくるので、今案内してくるねとなまえは待っているであろう研磨たちの元へと向かった。
外を覗くと案の定物珍しそうに彼ら3人の周りを取り囲むようにしている生徒たち。研磨は視線を合わせないようにしているし猛虎は明らかに挙動不審だし福永はそんな2人を見ながら声をかけてくる女子生徒の質問に何とか答えているようだった。
「研磨、お待たせ」
「遅い…待ちくたびれた…人すごい…」
「ごめんって。ほら、虎と招平も入って」
「なまえさん…!俺…ヤバいっす…!」
何がやばいのと言いながら席に案内していると例のクラスメイトからの視線を感じたのか、研磨がビクッと体を驚かせて周囲を見回していたので、気にしないでと言いながらメニューを見せた。
男装カフェに入る10人の赤いジャージ姿の男子生徒、しかも全員背が高く体格もよいので目立つことこの上なく、教室の外からも覗いている生徒が沢山いることになまえは驚きながらも3人の接客を続けた。
「なまえ、今日最後までそれ?」
「そうッスよ!メイド着ないんスか!?俺はメイド喫茶が良かったッス…!」
「残念ながら私はメイド担当じゃないの。女子校なんだからメイド服着ても面白くないでしょ。ほら、何頼む?」
「おれのはメイド服着てって意味じゃないけど…」
キッチンへ戻って、あの金髪のプリン頭の人だよと伝えると、クラスメイトは俄然興味を示したようで、目を輝かせながら研磨を見ていた。顔キレイだね、髪サラサラ、可愛い、と次から次へと色んな言葉が出てきてなまえは自分のことのように嬉しくもあり、同時に恥ずかしくもあり、次の言葉が出てくる前にありがとうと言って遮った。
「なまえ、研磨くんにサービスしてあげなよ〜」
「夜久とツーショ撮ってるの見たよ」
「当たり前じゃん!特別サービス!ほっぺにちゅーしたら衛輔めっちゃ照れて大変だった〜!!」
「鉄朗はノリノリでやって来そうでなんか嫌」
「研磨は逆に絶対嫌って言いそうだし嫌」
各メニューには特進クラスらしく手作りの謎解きが付いており、時間内に解けたら好きなウェイターまたはメイドとツーショットが撮れるというのがこのクラスの奉仕という内容であった。もちろん問題は難しく音駒バレー部員に解けるとは思わないので、記念に残したいがゆえに夜久と写真を撮ったのだろうということは想像に難くなかった。
無論クラスメイトの中には彼氏が来てそういうことをする人が何人かはいたので暗黙の了解という形になっており、なまえもしようと思えばできるのだが、ただでさえ目立つこの状況で、しかも写真をあまり好まない研磨が喜んで撮ってくれるとは思わない。
「黒尾と撮ってあげる」
「その代わり研磨くんとの写真撮らせてね」
「えー…」
「えーじゃないでしょ!」
友人と共に黒尾のテーブルへ向かって彼女が黒尾に抱き着いたところで写真を撮ろうとしたらその瞬間に黒尾が彼女を引き寄せてキスをするものだから、教室内からも外からも悲鳴にも近い声が上がり、拍手が巻き起こる。
お騒がせしてすいませんと黒尾が立ち上がってぺこりと営業スマイルで空気を掴んでいると、視線で次はお前だぞと指示されるのを感じて研磨は全力で首を横に振った。
「おい研磨、次絶対お前だぜ」
「無理。絶対無理」
「回避不可避か…?」
「福永のは回文にもなってないし!」
彼氏くんと写真撮らないの?と楽しそうな表情を向けるクラスメイトに背中を押されて恐る恐る研磨のテーブルへと向かうと、研磨はなまえの手を掴んでその場に留まらせた。一緒に写真を撮りたい気持ちがないわけではないが、この状況での撮影は嫌だ。しかしなまえの男装の写真は記念に欲しいというのもまた本音であり、研磨は彼女一人の写真が欲しいと思ってそれをどう伝えようか手を掴んだまま考えあぐねていた。
「さり気なーく手繋いでる…」
「なまえの彼氏くん、奥手っぽく見えて中身は野獣だからね〜本当の姿はあんなもんじゃないよ〜」
「え!?本当!?そんな感じなの!?見えない…!」
「とりあえずここは写真撮っとくとして、野獣の研磨くんがどうするか見ものだなぁ〜」
「カメラマンなの?」
カメラマンというよりお姉ちゃんです、と夜久を放ってなまえと研磨の写真を隠し撮りしていた友人は、クラスメイトと共に彼らの様子を楽しんでいた。研磨の目立つことが嫌いな性格となまえの遠慮深い性格を知っている彼女なりの2人へのお土産だ、と楽しそうにカメラを向けている様子をクラスメイトは不思議そうに見つめていた。
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