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>文化祭が終了して音駒バレー部の集団を見送ると、なまえたちはその場にいたクラスメイトから容赦ない質問攻めに遭った。どこの学校、彼の名前は、誰が格好良かった、誰か誰と付き合ってるの、彼女はいるの、などその質問は多岐にわたり、3人は間一髪のところで片付けと共に教室を抜け出して一息ついていた。
「もー鉄朗やってくれる…」
「いいじゃんラブラブ見せ付けたんだから〜!あ、研磨くんとのツーショあるからね」
「え!?なんで!?いつ撮ったの!?」
「手繋いでたからつい!写真送っとくね〜」
クラスの中で好評だったのはリエーフと海。黒尾はあんなことをしたおかげで話題にこそ上ったが横恋慕しようとする不届き者は直接聞いて来ないのでそこまでの質問はなかった。研磨は目立つことをしなかったおかげかプリン頭で猫目の男子高生に興味を持つ者もおり、名前や学年からアレコレ質問されるのでなまえは律儀に全て答えていた。質問されたことについては答える、つまり彼女の有無も聞かれなければ明かしてもいなかった。
「大丈夫だったの?研磨くんのことあんなに喋っちゃって」
「うん、まあ…だって聞かれるし」
「そうじゃなくて…。本気で音駒まで狙いに行く子いないと思うけど、ちゃんと言った方がいいよ、私が彼女ですって」
「研磨くんなまえ以外見てないし、興味なさそうだし心配しなくても大丈夫じゃない?」
そう言って友人から送られてきた写真を見て携帯を落としかけたなまえの様子を見て、微笑ましく2人は顔を見合わせて頬を緩ませた。
初めの1枚はなまえが手を握ってきた研磨の方を見つめており、2枚目で2人の視線が合う。3枚目はそんな2人の表情が柔らかくなっており、切り取ってみれば完全に2人きりの世界だ。
我ながらよく撮れてるよね〜と自画自賛する友人に感謝を述べて、なまえはその写真を見つめた。
「心配なさそうだね」
「でしょ?私たちが想像するよりずーっと研磨くんはなまえのこと大好きなんじゃないかな〜。だってこんな顔見たことないもん」
「うん、確かに。愛されてるって感じ」
「黒尾から熱烈なキスされてた人に言われたくないけど」
「もー!それ言わなくていいから!」
進学校のなまえ達の学校は文化祭が終わると完全に受験モードに切り替えるため行事もイベント事も何も無く、受験が終われば卒業も近い。いよいよかぁと友人がぼそりと呟くと、そうだねとなまえは寂しそうに答えた。高校は特にあっという間で、彼らと出会ってからは特に時の流れが早く感じた。あれ程一人で退屈に過ごしていたのが嘘のようだ、となまえは研磨の感触を思い出すように手を握りしめた。
携帯の鳴る音で3人は顔を上げてその主を探すとそれはクラスメイトからの着信だったようで、黒尾とお揃いのチャームをぶら下げた携帯を振って先教室帰るねと言って彼女は走っていった。
「研磨くんと別れちゃだめだよ」
「急に何?どうしたの?」
「んー、何となく〜?。なまえが一番幸せなのは研磨くんの隣にいる時だと思うからさ」
「時々鋭いの、なんかやだ」
「恋愛ならこの私に任せなさい!なんちゃって。2人ってただの学生カップルって感じしないんだよね〜。なんて言うか、お互いが運命の相手?みたいな」
なまえは友人の言葉を頭の中で反芻させた。運命の相手とまで思ったことは無かったが、自分の中の全ての感覚器官が彼を好きだと言っていることは確かだった。それが運命の相手なのだろうか、答えは出なかったが今までで一番好きな人であることに変わりはないし、彼の家族のことも好きだ。一時少し連絡を取らなくなったことはあるものの研磨と喧嘩したことすらないので、もしそうなってしまった時はどうしたら良いのだろうと今から恐ろしい気持ちになってなまえは考えないように頭を振った。
「私ももちろん衛輔のことは好きだけど、これからずっと一緒って想像するとちょっと分かんないんだよね。まだそこの域には達してないんだろうな〜」
「私は…ずっと一緒にいたい…かな。研磨が許してくれるなら」
「依存と信頼は違うよ、なまえ」
「あー、難しいこと言うね」
運命の相手に依存しないことなどあるのだろうか、となまえは笑いながら思った。彼女にとって孤爪研磨という存在は特別で、同じ空間にいるだけでどんなに安心して穏やかな気持ちになるのかは当人を含めて他人には分かるはずもない。依存しているかもしれないというのは薄々勘づいていたし、それは彼にとって重荷にもなる。だからこそ自分の気持ちは我慢しようと努めていたのにもっと素直になりなよと研磨自身に言われて甘やかされて、今更離れてくださいと言われて頷けるわけもない。
「結婚式呼んでね〜?」
「話早すぎ!黒尾の方が早いかもよ?」
「あ〜、そうかも。黒尾はちゃんとホテルとか予約してシチュエーション完璧のカッコイイやつしそうだわ〜。研磨くんは家な気がする」
「わかる。黒尾は夜景とか見ながらプロポーズしそう。家かぁ…なんか想像しちゃうからやめてよ」
「研磨くんは、とりあえず籍入れとく?とか言いそう〜!!カッコイイ〜!」
結局最後は妄想話になり散々盛り上がった後に教室へ戻ると片付けは大方終わっており、2人は顔を見合わせて苦笑した。後夜祭などもないので、次の日からの普通授業が出来るように教室を元の状態に戻し終わると順次解散となった。帰ろうかと思って携帯を覗くと、終わったら連絡してと研磨から短いメッセージが来ているのに気がついて終わったよと連絡を入れる。すると間髪入れずに電話が掛かってきてなまえは通話ボタンを押した。
《今どこ?》
「ちょうど終わったとこだからまだ学校。研磨は?」
《結局音駒戻って、練習終わった》
「え?自主練?」
《という名の強制。あ、クロまっておれの荷物…!今日家行っていい?》
「どうしたの、急に」
《何となく。え、なんか重いんだけど誰かリュックになんか入れたでしょ!》
部室の外で始めた電話。すると黒尾に閉められそうになって急いでリュックを持って外に出ると背負った荷物に違和感を覚え、周りの部員に怪訝な顔をしているといった状況だろうか、となまえは彼の言動を想像して笑った。彼といるといつもこうだ。楽しくて温かくてつい笑顔になってしまう。それが依存と言うのならばそれでも良いのかもしれない、となまえは電話の先から聞こえる様々な声に耳を澄ましてもう一度笑みを浮かべた。
なまえ、と声をかけられてそちらを振り向くと友人2人が誰と電話してるのかと身振り手振りで聞いてくるので、研磨と口パクで伝えると納得したような顔をして待っていてくれた。
「それで、本当に来るの?」
《行く気なんだけどダメ?》
「いや…いいけど…」
《じゃあなまえん家の最寄駅で待ち合わせね》
いずれ家には呼ぼうと思っていた。父も呼んで、3人で。しかし成り行きとはいえ先に研磨を連れて来ることになってしまったことをなまえは少し歯痒く感じていた。本当に好きな人だからこそ家族に紹介しなければと思っていたのだが、どうしても彼と2人きりで会いたい気持ちが勝ってしまう。
電話を切るなり浮かない顔のなまえを見て友人が声をかけてくれたが、大丈夫と言ってこれ以上の詮索を抑制した。研磨が家に来ると伝えれば何故そんな顔をしてるかと聞かれるはずだ。何も言わないのが得策だろうとなまえは口から出しかけた言葉を飲み込んだ。
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