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東京代表決定戦。それは春高への切符。土日に行われるため観客も多く、嫌でもこれが予選の最後なのだと実感させられる。多くの学校は此処までたどり着くこともできずにバレー人生を終えたり、次の年を見据えて新たなチームを組んだりしている。だが、この試合を乗り越えたとて長くこのチームが続くかどうかは誰にも分からない。

研磨は自室でゲームをしながら携帯の画面が光るのを視界に入れてそれが電話ではないことを確認し、キリが良いところまで進めようと指を動かしていた。何体か敵を倒したところでセーブポイントに入ったためコントローラーを置いて携帯に手を伸ばす。黒尾や山本であれば無視しても良いかと思っていたが、その相手が恋人であったため素直にメッセージを開くと、明日に控える試合には学校の進路相談があり、途中からしか行けないという内容だった。
それでもいいよと研磨がメッセージを返すと、ごめんねともう一度謝罪が返ってくる。木兎の調子次第では2試合目は確定的になるだろう。ヘイヘイーイと調子の良いあの声を想像して研磨が眉間にしわを寄せながら返事を考えていると、タイミング悪く母から夕飯が出来たと声がかかった。

「あ、なまえ?」
《研磨から電話してくるの珍しいね》
「母さんから呼ばれたから…。なまえ、明日ね」
《うん。また明日》
「…そこは頑張ってって…言ってほしい…」

え!?研磨そういうの嫌いじゃなかった?となまえが驚愕した様子なので、彼女に応援されて嫌な気持ちになる人いないでしょと不服そうに研磨は口を尖らせた。その表情が浮かんだのか、なまえは少ししてくすりと笑って返事をした。

《頑張ってね、研磨》
「うん…ありがとう」
《音駒の本気の試合、楽しみにしてる》
「そこはおれも楽しみ。じゃ、またね」

電話を切ってリビングに向かい、いつも通り食事をする。明日試合でしょと母からも話をされ、頷くとなまえは見に来るのか、私達も行こうか、などまたもや質問攻めをされるので、来たかったら来ていいけどなまえも友達と来るからあれこれ変なこと言わないでねとクギを刺しておいた。

両親はあまりバレーの試合を見に来ることは無いが、来ても彼に話しかけに来たりはしないので今まで気にはしていなかったが、なまえが来るとなると話は違う。今まではプレイヤーの研磨と観客の両親だったので一線を引いていてくれたかもしれないが、なまえとは観客という同じ立場だ。隣で見ることも有り得るかもしれないし、盛り上がってしまうかもしれない。それは勘弁してくれ、と研磨はなまえが来た際の自宅での両親の興奮を思い出して首を振った。

とはいえなまえが2試合目の開始までに来るかは正直微妙だろう。仲良しの2人と一緒に来るだろうし、同じクラスのなまえだけ進路相談があるとも考えにくい。なまえがスタンドにいれば頑張る気が出るだろうし、早く来て欲しいと研磨は少しばかり期待してその日はベッドに入った。

「今回は赤葦の“木兎立て直し”の手腕に拍手だな」
「ねえアレ…なんとかして」

音駒高校、1回戦の梟谷戦はストレート負け。落ち込むリエーフを顎で差しながら、黒尾の隣をすり抜けて観客席にいなかったなまえに連絡を取るべく荷物の方へと向かった。案の定連絡が来ていると思ったら好敵手である日向からのメールで、それは春高へ行くという内容だった。
他にはメッセージもなく、なまえからはまだ連絡が来ていないことが分かる。取り急ぎ連絡だけしておこうと研磨は指を滑らせてメッセージを打ち込むと、山本から名前を呼ばれて急いで送信して携帯をしまった。

「ちょっと!“梟谷に負けた。これから2試合目”だって!急がないと!」
「え!研磨くんから!?やば!行こ行こ〜!」
「電車だと何時につく?タクシー使う?」
「んも〜お嬢か!錦糸町だし間に合うよ!それに粘りの音駒がそう簡単に終わるわけないじゃん。衛輔が繋ぐから大丈夫」

なんか安定感出てきたよね、と友人の隣に想像出来る夜久の姿を思ってなまえは笑いながら2人と共に東京代表戦が行われている墨田区総合体育館へと急いだ。きっと木兎を止められなかったんだろうと話しながら、それにしても終わるのが早くないかと。速報がどこかに落ちているのではと必死に携帯で検索すると、見つけた友人の携帯の画面を3人で覗き込むと、まさかのストレート負けということが発覚した。

「うわぁ〜、梟谷にストレートじゃん…」
「でも戸美より点はとってるね。2試合目デュース持ち込んでるし惜しいところまでいったんじゃない?」
「戸美って強いんだっけ?あんまり聞いたことないけど」
「色々と厄介だし面倒くさい相手だって鉄朗が言ってたよ」

そうは言っても井闥山と梟谷ほどではないと思うけど、と友人は言葉を続けた。黒尾をはじめ3年同士は何度か対戦している影響か顔見知りらしく戸美の話をするとあまりいい顔はしない、というか悪口のオンパレードだったと笑った。良きライバルということだろうか、となまえは研磨からその名を一度も聞かなかったことを思い出した。

「第1セット終わってませんように…終わってませんように…」
「大丈夫だって言ってんじゃん!ほら、乗り換えするよ〜!」
「主将よりリベロが頼もしいのは彼女も一緒だね」
「その絶妙に辛辣なところとか、研磨くんに似てきてない?」

錦糸町で電車を降り、目の前に現れた墨田区総合体育館。“全日本選手権 東京都代表決定戦”と紙の貼られた掲示板には、1試合目のスコアが貼られていた。それを横目に見ながら3人が中へと足を踏み入れると、応援の声やメガホンを叩く音がする。いよいよ始まる、となまえは緊張する面持ちで2人を見ると、同じように深呼吸をしている様子が見て取れて少しおかしくなった。
研磨なら、黒尾なら、夜久なら、音駒ならきっと勝てる。
そう信じながら、3人はコートを見下ろす観客席へと足を進めた。




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