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第2セットは少し押されながらも段々と整ってくる音駒の守備に戸美も苦戦しているようだった。芝山の動きが固いのは当たり前だ。あの夜久の代わりを一時的とはいえこの試合中は務めなければならない。そのプレッシャーが如何程のものか、となまえは必死にボールを追いかけるその姿を見守っていた。

中盤、戸美のピンチサーバーの投入によって少し戦況が変わる。前の試合で指を脱臼したのだという話が聞こえてきて状況を察する。沼井と呼ばれる彼がおそらく戸美のエースで、彼を欠いた状態でここまでの試合展開をしてきたのだというから賞賛に値するだろう、とはいえ音駒も夜久を失っているのでどちらとも言えないか、と2人は考えていた。

「戸美の12番は上手いね。他の子と少し雰囲気違う」
「潜くん…?だっけ。背番号的に1年生かな?リエーフくんを思うと落ち着いてるよね」
「リエーフは3年になっても変わんないよ」
「確かにそうかも」

沼井のサーブで幾つか点を取られたものの、得意の粘りで音駒が負けるわけが無い。序盤は不安定だった猛虎も調子を取り戻しつつあり点は取って取られての繰り返しだった。審判に聞こえないところで選手を煽ってこちらの不安を掻き立て不安定にさせ、自分たちは媚びを売って試合展開をいい方に進めていくという話だが、おそらく研磨は煽られていないのだろう。もしされているとしたら、それすらも上手く使ってしまうのが孤爪研磨というプレイヤーだ。なまえは満足そうに彼の姿を見つめた。

「芝山くんの固さだんだん取れてきてよかったねー…」
「うん、守りの音駒のリベロなんだから自信持てって夜久に言われでもしたかな」
「それ、すごい言ってそう!」
「夜久にそんなこと言われたらやるしかないもんね」
「私、1年生の時の3年生があの3人だったら感激しちゃうかも。3年生ってただでさえ大人に見えるじゃん?なのにあの3人、音駒が腐ってた時も本気でバレーやってたって聞くし、同い年でも心強いって思うから」

流石は主将の彼女じゃんとなまえが茶化すと彼女はそれは恥ずかしいから今言わなくていい!と必死に両手を振った。音駒が腐ってた時というのは研磨の言う“いばる先輩”が居た時代なのだろうとなまえは検討をつけた。それで一度は部活に行くのが嫌になったと言っていたが黒尾が困るからという理由でここまで続けているのだ、当人である黒尾にとってはどんなに心強い後輩であり幼馴染だっただろう、とブロックにレシーブに活躍する背番号1を見つめた。

「バレー今でもやってたかった?」
「うーん、どうだろう。なまえは?」
「私はどっちでも良いかな」
「何それ。なんで聞いたの?」
「いや、どうかなって。私たちは少しお手伝いをしたところでコートには立てないし、マネージャーにもなれないじゃん」

他校の生徒ゆえ、マネージャーになることは出来ないし部活に参加しているわけでもない。あくまでもボランティアで手伝いをしているという立場だ。それが歯痒くもあり、深く関わりすぎなくて楽だということもある。研磨が3年生になった時、なまえは大学生だ。すれ違うこともあるだろうし、今のように気軽に音駒に足を踏み入れることも少なくなってしまうだろう。それはなまえにとってはとてつもなく寂しく、苦しい現実だった。だとしても彼との距離が縮む方法はない。そのために1年浪人するなど言語道断だし、そんな選択肢はなかった。

「来年、研磨くんを見られないから?」
「それは…」
「そう…だよね。鉄朗も夜久くんも3年だから、私たちは今年で終わっても後悔はないけど…」
「うん。分かってる。それでも、どうしたらいいかなんて分かんないよ」
「むしろ研磨くんの方が心配してるんじゃない?なまえが大学生になって、新しい人と沢山出会うことを思ったら」

そうかもしれないけど、となまえは必死にブロックを飛ぶ研磨を見つめた。来年もこうして彼がバレーをする姿を見続けていたいが、このコートには黒尾も夜久も海もいない。それがどれほどの違いを見せるのか、自分がどこまで音駒高校バレーボール部に目をかけるのか、なまえは悩んでいた。おそらく研磨は今年ほどのサポートを求めはしないだろうし、なまえがやりたいようにしてと言うだろう。だからこそ、迷うのだ。

「衛輔ほんっと心配かけるんだから〜」
「あ、おかえりー。夜久くんの様子どう?」
「心配ないって顔してた。直井コーチは動くなって鬼の形相だったけどね」
「はは、それ想像できる。でも本当に良かったね。あとはこの試合勝つだけ」
「それも大丈夫じゃないかなぁ。なんか衛輔が頼もしそうに芝山くんのこと見てたし、近くで見てると良さげな感じしたよ?ちゃんと音駒のリベロ!って感じになってきてたし」

夜久のことを見ながらも試合全体をきちんと見ていた彼女に尊敬しながらなまえたちは再度3人で見守っていた。下で見たいのは山々だったのだが、先程のようにボールが飛んできてプレーの邪魔になってしまうのは避けたい。なまえ達の方にボールが飛んでいって彼らがこちらへの怪我を恐れてボールを取りに来られないなど本末転倒だからだ。
セットポイントが近づいたところで、再度アクシデントが音駒を襲う。

「え、何?黒尾どうしたの?」
「さっきのブロックで指やったのかな。大したことないといいけど…」
「もー、夜久くんに続き…やめてほんと…」
「このセット取って終わりにしたい〜〜!芝山くん、お願い!頑張って守って〜!」

3人は祈りながら戦況を見守るしか出来ない。黒尾が抜けたとて研磨の様子は大して変わることは無かったので、なまえは安心してコートを見つめていた。おそらくすぐに帰って来れるような怪我なのだろう、流石に夜久に続いて黒尾まで長期で離脱することになれば雲行きはかなり怪しくなってしまうが、研磨の表情を見る限り問題は無さそうに見えた。

「心配かける3年2人」
「海以外ね」
「海くんが居なかったら無理でしょ〜普通に成り立たない」
「ひど!」
「だって衛輔と黒尾だけじゃ無理だよ〜衝突して終わる」

主将でなくても、目立たなくても、海信行という人物は音駒にとって大きな存在だ。個性的なキャラクターの部員たちをいざという時にまとめ、黒尾と夜久が対立した時の仲裁役であり、試合中に限らず後輩たちを安心させる言葉をかけられる落ち着いた人物。
なまえは海になぜ主将にならなかったのかと聞いたことがあるのだが、苦しい時に積極的に皆を鼓舞したり、楽しいことは全力で遊んだり、そういうのが出来る黒尾の方が適任だよと普通に言っていたのを思い出した。相手の力量を認め、尊重する。高校生には難しいことを当たり前のようにこなす彼を尊敬した。それにどれだけ夜久が噛み付いたのかは想像に難くないが、と返すとリベロは主将になれないからなと笑っていた。

そしてリエーフと芝山のチームワークにより、音駒高校は春高への切符を手にした。




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