記念日に疎くてごめん

※同棲中。
※研磨:大学4年、夢主:社会人1年目



生活力のない彼と同じ家で過ごしていると自然と家事を担当するようになる。決して苦ではない上に生活費は彼持ちなので何も言えはしない。言ったところでじゃあやらなくていいよと言われるのが目に見えているので言わないが。
大学を卒業してから研磨の会社を手伝おうかとも思ったが、まずは一般企業で教養を身に付けても遅くはないと思い立ったのだ。

「おはよ…」
「あ、研磨。おはよ。お昼冷蔵庫だからね」
「うん…」
「多分今日は早く帰れるよ」
「そう…わかった。寝ないで待ってる」

経理に配属されたなまえは月末が忙しく、締め日を過ぎた今日は早く帰れそうだと。研磨が眠い目を擦って時計を見ると、時間は8時前。彼女と半同棲を始めて毎日この時間に起きるようになった。今まで一人で雑に過ごしていたのが考えられない、とジャケットを羽織るなまえの背中から腕を回した。

「研磨?」
「…はぁ。おれ、もうなまえなしでは生きられない」
「なにそれ。ほら、私行かないと」
「んー」
「行ってきます」

ちゅ、と額に口付けられて、颯爽と出かけるなまえを複雑な顔で見送る。身長はおれの方が幾分か高いはずなのにとキスされた額を押さえながら再度時計に目を向けると、時刻は8時を少し過ぎたところ。朝ご飯でも食べるか、と欠伸をして冷蔵庫を開けると、彼女が作ってくれた昼食であろうチャーハンが入っている。あとサラダも。
お前よく飽きられねーよな、ある意味すげぇ、とクロに言われたのが頭を過って研磨はヨーグルトに手を伸ばして冷蔵庫を閉めた。冷気がふわっと顔を包む。この瞬間が好きだ。夏は涼しくて、そのために冷蔵庫を開けたくなる。怒られるからしたことはあまり無いけど。

ヨーグルトを食べていると、携帯が鳴っているのに気がついて手を伸ばすと、着信元はまさにその幼馴染の彼女。眉間に皺を寄せつつ研磨は応答ボタンを押し、その電話に応えた。

「朝から何?」
『あ、研磨くんおはよ。なまえもう家出ちゃった?』
「うん。いないけど」
『研磨くん、なまえと付き合って今日で1年じゃない?なまえが気にしてたから、覚えてるかなーって』

完全に忘れてた、というか今更そんな記念日が存在するという感覚すらなかった、と研磨が固まっていると、彼女がやっぱりねと笑う声がする。なんでそっちが知ってんのと文句を垂れると、なまえが珍しくそういうこと私たちに言ってきたからさ、と嬉しそうに話す。
んーと頭を掻くと、あとは研磨くんが頑張る番だからね!と念押しされて一方的に切られた。
どうしよう、何しよう、と家の中をウロウロしたがこれといって思い付かない。とりあえず、いつもなまえがしてくれる家事でもしておくか、と洗濯機へと向かう。なんとなくネットに入れておけばいいやと洗濯カゴから洋服を取り出していく。
おれのTシャツ、彼女のシャツ、おれのパンツ、彼女の下着。
レースの付いた女性特有の下着。引っ張りあげると少し彼女の匂いがするような気がする。
煩悩、と目をぱちくりとさせてそれを見つめていたことに気がついてそそくさとネットに入れて洗濯機へと放り込んだ。

「はぁ…おれ、何してんの」

洗濯用洗剤を入れてピピピと決められた洗濯機のボタンを押すと、自動で水が溜まる音がする。洗濯してる音って少し好きなんだよねと言っていたことを思い出し、研磨は少しその場に佇んでいた。
高校時代に出会い、それから数えればもう5年目になる。もちろんなまえとセックスはしたことがある。というか、今は半同棲しているのでよくする。なのに下着を見て取り乱すなんて、まるで付き合いたての頃みたい、と研磨は再度ため息を吐いた。

日中はゲームをして過ごし、彼女の作ったお昼を温めて、忘れていた洗濯を干してまたゲームをして、時計を見れば気がつけば16時。しばらく時計を見つめたまま固まっていると、結局何もしていないことを思い出す。ゲームをセーブして電源を切り、洗濯を取り込む。彼女のブラジャーが揺れるのを見て少し気持ちが昂るのは何故かわからない。
あと1時間半もすれば、まもなく帰ると連絡が来そうだ。どうしよう、結局何もしてない。かといって買い物に行ったところで、何を買ったらいいのだろうか。ひとまずいつもやらない洗濯物を畳む作業を始めた。

自分もバレーを辞めたあとは筋肉も落ちたので華奢な方だが、それよりも細いなまえの体はどうなっているのか、と彼女のシャツを見て疑問に感じる。いや、それこそ体はこの目で見ているのだが。腰周りだってこれくらいしかない、とその感触を思い出すのも、決まって行為の時の感覚。
おれ、もしかして欲求不満なの?と自問自答していると、携帯が鳴った。短いのでメッセージだということは分かる。せっせと洗濯物を畳み、携帯を見るとそれはなまえからで、買い物して帰るよという短いメッセージであった。

あ、と研磨は思い立って出かけるために服を着替え、財布と携帯だけポケットに入れてそそくさと家を出た。少し肌寒かったかも、なんて思ったがもう戻る気はしない。なまえが帰りに寄るスーパーはあそこしかないはず、と足早に目的の場所へ向かうと、そこは夕飯の買い出しに来た主婦で溢れかえっている。
もしかして毎日この状態なの、と帰りたい気持ちを抑えて見慣れた後ろ姿を探していると、青果コーナーにその姿を発見。

「なまえ」
「えっ、研磨!?びっくりした、どうしたの?」
「荷物持ち、いるかなって」
「何、どうしたの?なんかあった?」

彼女が持っていた買い物カゴを半ば強引に奪い取ると、なまえがその中にリンゴを入れるのを見逃さなかった。獲物を見つけたような顔をしていたのだろう、ふふと笑うのが聞こえて顔をあげると、レジ行こ、と笑顔で腕を引く彼女。

「まさか研磨がスーパーに来るなんて」
「びっくりしてたね、なまえ」
「あんなに人いるのに。よく帰らずに入ってきたね」
「おれにしては頑張ったと思わない?」
「自画自賛」

何気ない話をして帰路につく。重い方の袋を研磨が持ち、軽い方をなまえが持ち、2人は手を繋いだ。研磨が外で手を繋ぐなんてそうそうあることではないので彼女は驚いたが、そんな彼はどこ吹く風。そっとその手を握り返すと、強く握り返されて2人は家へと到着した。

「あれ、研磨…もしかして、洗濯してくれたの?」
「うん」
「ありがとう…今日、どうしたの?ほんと、なんか変」
「おれたち、付き合って1年でしょ」
「…それ、昨日ね」

うそ、と次は研磨が驚く番。ほんと、となまえは言ったが、それでも嬉しい、ありがとね。と微笑んでくれた。
昨日なら昨日連絡してよと理不尽な苛つきを幼馴染の彼女に向けつつ、自分より華奢ななまえを抱き締めた。

「だからなのね、こんなに色々してくれたの」
「欲しいもの分かんなかったし、かといってなまえに愛想つかされてもヤだし」
「不安にでもなった?」
「おれ、なまえが一番好き」

夕飯も食べたいけど、その前にと研磨がなまえのシャツのボタンを外しにかかろうとすると、予想通り静止の声が掛かるが、昼からあんな思いをしたのだ、我慢なんてできるはずもなく。今日は譲れない、となまえを抱えてベッドへ向かうと、その間も彼女の匂いに包まれるものだから、もう無理だ限界とシャツから除く肌に舌を這わすと、くぐもった声が聞こえる。

「ん、研磨…っ」
「なまえの匂い、ほんと好き」

夕飯もアップルパイも楽しみだが、まずはその前のお楽しみ。大好きな人との、2人きりの時間。



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