夏祭り〜たこ焼き〜
>夏は暑いし家から出たくないし、祭りなんて人混みは以ての外。それが分かってて敢えて誘ってくる黒尾も黒尾だが、と思いつつ研磨は行かない、と一言メッセージを送った。今日は近くで夏祭りらしい、なまえは行くのかなと少し考えたが、ジークジークと鳴く蝉の声を聴くだけで嫌気がさしてきて彼はベッドへと寝転がった。
すると部屋の扉がノックされ、買い物行ってくるねと母から声をかけられる。はーいと返事をして引き続きゲームをしていると、携帯が鳴っているのに気がついた。黒尾だったら無視しようと思いながら画面を覗いた時にそれは切れてしまい、研磨は気にすることなくゲームを再開させた。
「研磨」
「…は?」
「家の前着いて電話したら丁度お母さん出てきて、上がらせてもらっちゃった」
「いや…え?なんで」
軽くノックをして入ってきたなまえに何しに来たの、とは言えず一先ずゲームをセーブして彼女を見ると、見慣れないワンピースを着ている。可愛いな、と思いつつもしや夏祭りに誘いに来たのだろうかと研磨が眉間にシワを寄せると、彼女は背後からたこ焼きを見せた。
話によると、研磨が行かないであろうことを見越してなまえは彼を誘わずに黒尾や夜久達と少し屋台を回ったらしい。それもそれで嫌なんだけど、と思いつつ研磨は彼女の持ってきたたこ焼きに串を伸ばした。
「黒尾にも、私がいること言わなくていいよって言ったの。なんか引き合いに出すのもと思って」
「まあ…うん」
「黒尾と夜久がとにかく張り合うからそれを海と一緒に見てたんだけど、あの2人ほんとに面白くて」
「…うん」
もぐもぐとたこ焼きを頬張りながら、研磨は彼女の服装に視線を向けていた。白いギンガムチェックに小花が散りばめられたノースリーブのワンピース。可愛いけれど、自分が見たことの無い服を他人が一番に見ているというのが気に食わない、と研磨は口を動かし続けていた。その様子を見てお茶持ってくるねとなまえが立ち上がろうとしたので、おれも行くと研磨も彼女と共にリビングへ行った。
慣れた手つきでなまえが棚からグラスをふたつ出すと、研磨は冷蔵庫を開けて緑茶を取り出してそれに注いで片方を一気に飲み干した。
「ねえ、その服…」
「え?あ、これ、この前買ったんだ。一目惚れで」
「そう…可愛いね」
予想外のストレートな物言いに驚いてなまえは言葉を失い、パチクリと瞬きをしてありがとうと感謝を述べた。研磨が服装を褒めるなんてあまりにも珍しく、何事かと思って再度緑茶を注いでいる彼を見つめていると、何?と手を止めてなまえの方をちらりと見るので、何でもないよとグラスを持ち上げて部屋への道のりを歩き出した。
部屋には残してあるたこ焼きが4個。6個入りを買って研磨が2つ食べた残りだ。
「誰がいたの?3人の他に」
「招平と猛虎と、あと、あかねちゃん」
「へー」
「何その反応。研磨が聞いたんでしょ」
なまえがたこ焼きに串を刺すと、研磨は不機嫌そうにその串ごとたこ焼きを奪い去った。あ、となまえが声を漏らすのもお構い無しにそれを頬張る。まあまだあるしと思ったが串を2本とも研磨に奪われており食べる術がない。彼がご機嫌斜めなのは何となく察していたが理由がわからない、となまえは首を傾げながら向かい合って座っていた彼の隣へと移動する。
「研磨」
「何?」
「何で怒ってるの」
「別に」
さっきは服を褒めてくれたと思ったのに、となまえは彼の口の端に付いていたソースを指で取る。土産を買って帰るなんて随分と献身的な彼女だな、あんまり研磨を甘やかしすぎんなよと黒尾にからかわれたのを思い出す。そんなことしているつもりはない、ただ単に楽しい時間を共有したいだけなのだ、となまえは指についたソースを舐めた。
「分かんない?」
「え?」
「おれが怒ってる理由」
研磨がじっとりとなまえを見つめるも、彼女はうーんと悩んで答えを探しているようだった。普段なら恋愛に関して疎いことはないはずなのに、と研磨が串をたこ焼きに伸ばして彼女の口元に持っていくと、素直に開いた口にそれを押し込んだ。
少し冷めてしまったけれど、彼女が自分のために買ってきてくれたものをこうして共有するのは嬉しい。でも、と研磨は隣の白い服へと視線を移す。なまえは何か言いたげな顔をしてもぐもぐと口を動かしている。なまえの口には少し大きすぎたなと思いつつ研磨は彼女の口の端に付いたソースをお返しと言わんばかりにぺろりと舐めとった。
「なまえの彼氏はおれだよね」
「…うん」
「無理に喋んなくていいよ」
「ん」
「じゃあ、分かるでしょ」
なまえは早く口の中に詰まっているたこ焼きを消化しなければ、とひたすらにもぐもぐと顎を動かした。研磨が何を言わんとしているかは何となく分かった。先程のワンピースの会話だ、となまえは自身のそれに目を向けた。研磨が好きだと言っていたふんわりしたラインのワンピースを敢えて買ったのだ。なまえの私服は様々だが、ライブハウスで働いていた影響でストリート系が多かった。彼は服装については何も言わなかったが、2人で出掛けた時に試着したスカートをえらく気に入った様子だったのが忘れられなくて今回これを購入するに至ったのだ。
「ごめん、研磨。皆は私の普段の私服知らないだろうし、気にしないと思って。今日研磨に会うから着てきたんだけど、順番が逆だったね」
「ふぅん…」
「機嫌直してよ」
「それはなまえ次第だよ」
何それ、となまえは眉を下げてどうするか悩んだ。残りのたこ焼きはあと2つ。本来ならこんな事しないんだけど、と思いながらなまえはそれを半分咥えて研磨に向き合った。何それ、食べろってこと?と彼は驚いていたが、ニヤリと笑って、じゃあ遠慮なくと唇ごとかぶりついた。
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