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>予想していた通りこっぴどく叱られ、研磨くんが可哀想と彼に同情する友人達に、なまえはその夜の話をしていた。別れる気がないと言われたことを伝えれば、恍惚とした表情でそれを聞き、惚気だねぇと言う友人にそういうつもりじゃないと弁解する。
「研磨くん、安心したんじゃない?告白のことは置いといても他に何も無かったわけだし、大好きななまえが無事に自分のとこに帰ってきた!って」
「私もそう思う。怒るというか、なまえが想像する以上に心配してたんじゃないかなぁ〜。私のとこまで連絡してきたくらいだし」
「えっ、そうだったの?その辺聞いてないんだけど…」
「いやいや、私たちこそなまえに何もなかったって報告聞いてないからね?逆だから!」
あ、となまえが口は災いの元、と口を閉ざして何も無かったフリをするも時すでに遅し、友人2人はじとっと彼女を見つめている。ごめん、となまえが謝れば、まあ連絡してきたのは研磨くんだし、きっとなまえと会えて私たちに連絡することなんて頭からすっ飛んだんだろうねと笑って流してくれた。
季節が12月へと近づいて行くにつれ、彼女達は受験、そして音駒高校バレー部は春高へと水準を合わせ始めていた。クリスマスや年越しだの言ってられないかとも思ったが、その辺はちゃんと楽しまないとダメでしょと友人に言われ、そうやって根詰めるから隙ができて他の男に狙われるんだよと釘を刺されてなまえはぐうの音も出なかった。
「あ、ねぇなまえ、そういえば研磨くんお父さんには紹介したの?」
「まだ。先月帰ろうとしてたところで出張になったらしくて。今どうしてるんだろう?」
「何それ!またアメリカ?」
「うん、多分そうじゃないかな?年末には毎年帰ってくるけど、今年どうするんだろう」
どうするんだろうじゃないでしょ、聞きなよと友人はなまえの言葉に苦笑した。一人娘の彼氏と言われて連れてこられたのがあの超人見知りな研磨だったら、きっと自分の父は不安になるだろうと友人は思った。どうにも彼の内向的な性格が気になってしまう。お節介な話だが大丈夫なのだろうかと。
だが、なまえがそれを気にしている様子は見受けられない。むしろ軽く考えていそうな雰囲気で、いつもの慎重な彼女とはまるで違う。
「なんか研磨くん紹介するの余裕そうだね…。私は鉄朗連れてく時すごい緊張しちゃった」
「うーん…あれこれ言われることはないだろうし、人見知りで口下手だとは言ってるし…」
「研磨くんちゃんとなまえパパと喋れるのかな〜。それが不安だよ〜」
「大丈夫、何とかなるよ」
なまえの根拠の無い大丈夫は全然信じられないやつだ、と笑われながらも当人のなまえは特段心配していなかった。父に提言したことなど今まであまり記憶にないが、研磨のことに関しては強気でいこうと固く心に決めていたので、何を言われても動じるつもりは無かったし彼と別れる気もなかった。
それ故にボーカルとの一件は引け目に感じており、研磨ともう一度しっかり話さなければならないと思ったし、彼にも断らなければと思っていた。それを友人に伝えると、当たり前じゃんと鋭い言葉が返ってきた。
「だって“今回は”って言ったんでしょ?絶対また狙われるよ!」
「右に同じく〜。研磨くんの目の前で電話してお断りしよ!その気は無いですって」
「うん、そうする。ありがとう2人とも」
「なまえはなんか隙がなさそうで隙だらけだからなぁ〜」
頬杖を付いてお菓子をパクリと食べる友人になまえが不思議そうな顔をすると、無自覚じゃんと2人は顔を見合わせた。以前にも無自覚だと言われたことがあるなと思い返せば、研磨のことを自分が思う以上に好きだと指摘された時だと気が付いた。彼女たちはよく気が付くなと感心するのと同時に、自分が一番自分のことを知らないのではということに焦りを感じた。だからこそ、研磨を傷つけてしまうのだろう。
「研磨に愛想尽かされないようにしないと」
「え…なまえそれ本気?本当に本気で言ってる?もしかしてまた無自覚?無自覚なの?」
「急に何…怖いんだけど」
「いやいや、だってどう考えても愛されてるじゃん!溺愛だよ?溺愛ってか寵愛かな?」
なまえの場合は無自覚というか愛されてる自信ないだけかもねと言われ、言葉に詰まる。ここまで誰かに想われた経験がなく困惑しているのだろうかとも思うが、おそらくそうではない。一体何なんだろう、となまえが考えていると、またなまえは考えすぎだって〜と友人が口元にお菓子を差し出してきたのでそのままそれを口に入れた。
「研磨くんはなまえを寵愛してるし、なまえも研磨くんにベタ惚れ。それが2人の構図。以上」
「なんか改めて言われるとめっちゃ恥ずいんだけど…」
「あんま深く考えなくていいんじゃない?恋愛って1人でするものじゃないし、研磨くんと話しなよ」
「それ正論…。うん、ちゃんと研磨に話すよ。父さんにも」
その気だ〜!とウィンクしてみせる友人に感謝を告げてその場で父に次はいつ帰ってくるのかとメッセージを送り、研磨にも送ろうとしたところで会いたいと言われているのだから直接聞けば良いか、と打ち込んでいた文字を消した。流石に3人が会す日はきちんと料理しなければとなまえが思っていると携帯が鳴るので画面を見れば、それは父からのもの。
「年末は帰るって」
「なまえパパ?」
「うん。あ、流石に部活は…休みだよね?」
「そうなんじゃない?鉄朗に聞いてみよっか」
「…ありがとう」
研磨に言われてからごめん、と言う回数を減らすように努めている。直ぐに謝るのが癖だと指摘されなければ今だって言っていただろうとなまえは思った。17年間生きてきて自分のこともろくに分からないようではこの先も研磨に心配をかけたり不安にさせるかもしれない、と気を引き締めた。
「学校自体が閉まっちゃうから年末は休みだって。クリスマスは部活かもって言ってるけど…」
「えぇ〜!クリスマス部活なの!?」
「仕方ないよ春高前だし。私達も勉強しないとじゃん」
「そうだけどさぁ〜〜衛輔とイルミ見に行こうと思ってたのに〜」
「どこの?読ラン?」
そして話はクリスマスに何処へ出掛けるかという内容へと移っていく。人の興味は流動的だ、となまえはぼんやり考えていた。研磨はイルミネーションを一緒に見たり、どこかへ出掛けたりしたいタイプなのだろうか。言わないだろうが意外とそういった恋人らしいイベントにも興味があるのだろうか。
まだ彼のことをあまり知らない、となまえは盛り上がる2人の友人と笑いながら思った。
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