荀或登場


粗末な、だが清潔な服の男が釣りをしている。
古代中華では有能な在野の男が釣りをする。ポイントは服が綺麗という点。魚を捕まえるにしてはやや場違い。
古代中華では自分が有能な在野の士とアピールするために釣りをする者が後を断たない。
ちなみに現在の中国で同じことをしているのは只の暇人かがちの釣り馬鹿でしょう。

「何を釣ってるんすか?」
こうもあからさまに賢者アピールをされたので、曹操はあっさり釣られた。
「我輩は龍を釣っておる」

龍。
流石に賢者は言うことが違う。

多少気圧されつつも曹操は続ける。
「釣れますか?」
「今、貴殿という龍が釣れた次第」
荀或はせせら笑いのような表情を浮かべ、自分を売り込む。
「我輩の名は荀或。我輩は些か天文地理、物理数学化学生物歴史経済農学に秀でておる。どうだ、曹操殿、我輩を使ってみぬか?」

何だかわからないがすごい自信だ。
「俺に何をさせようと?」
「これはこれは」
荀或は芝居がかった口上を続ける。
「ああ、曹操殿。我輩は貴殿の瞳に宿る野心を見落とすことはなかろうに。が、我輩は貴殿のその野心に帝国の興廃を委ねたいのだ。率直に言おう貴殿に天下をとらせたいのだ」
「荀或さんとやら、あんたは俺をどう見る?」
「貴殿は治世の能臣、乱世の奸雄だ」
奸雄というのは謀略の限りを尽くし、力ずくで権力者にのしあがる者のことである。カッコいいと思う方もいるだろうが悪口だ。
日本ではともかく、本場中国では悪口だ。

「乱世の奸雄。それも良い」
曹操はほくそ笑む。
曹操は乱世一代の大奸雄の二つ名を持つようになる。日本人の感覚だとなんかちょっとカッコいいので、日本で読まれている三国志の主役が曹操になることが多い。
が、この人の場合、業績を正当化すると面白味に欠ける人物になる。やはり謀略の限りを尽くし、ライバルを蹴落とし、儒教道徳を踏みにじってこそ乱世一代の大奸雄というもの。

閑話休題。
こうして曹操陣営、いや、三国志最高の軍師荀或が曹操に自分を売り込んだ。
荀或は袁紹の配下だったがあまりにブラックだったので、退職していた。以外とクールでドライな軍師である。

荀或が仲間になった。


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