緑間くんが不平等に憤慨する話
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いわゆる一種のジレンマである。
緑間真太郎は何度か眼鏡をつけたり外したりを繰り返して、眉間に皺を寄せて不快そうに言葉を漏らした。
「前が見えないのだよ」
衆知の事実である。
彼の目の悪さは眼鏡を外しただけで隣の人とマーライオンを見間違うくらいなのだ。今更何を言っているのか、一番わかっているのは自分だろうにと思いつつ名前はそんな緑間の奇行を見守っていた。飽きることは無い。本当に、黙って本でも読んでればただのインテリ眼鏡なのに、ちょっとでも動くと変人にしかならないのが不思議だ。
なんで俺こいつと付きあってんだろう。
ていうか何で俺こいつの事好きなんだろう。
惚れた者負けという言葉があるが、正直たぶん、惚れたのはお互い同時期だ。じゃないとこの変人が率先して構いに来た意味がわからない。毎昼食時に「これでも喰らえ」とパンを俺の顔面に3Pシュートしてくるという、俺以外の人間だったら3回続いたら殴りかかるような妙なデレをデレと認識できた俺って凄い。しかしそろそろ眼鏡バーサス緑間の戦いが十分を過ぎようとしているのでツッコミをいれたい。
「何やってるのかわかんないけど落ちつけよ」
「俺は落ち着いているのだよ」
「不思議そうな顔すんな癪に障る」
「なんて言い草だ」
ただでさえ神経質そうな顔をしている癖に余計に悪化させている。「俺はな、」と言葉を続けようとして少し考えて、緑間は何故か机の上に命綱ともいえる眼鏡を置いた。お前、眼鏡にチェーン付けるか真剣に相談して高尾に爆笑されていた癖に、自らそれを置くのか。案の定あっちこっちにぶつかりながら向かってきてるので、慌てて立ち上がって止めに入る。
「目測がずれる!動くんじゃない!」
「き、貴様人がせっかく助けてやろうと」
「いいから少し言う事を聞くのだよ…と、たどり着いた。座れ」
「あー?」
ドヤ顔の緑間は人の顔を無遠慮にぺたぺた触って、俺を座らせた上に思いっきり寄りかかってきた。あのな、お前自分が約二メートルのデカブツという事をお忘れですか?文句を言いたかったが、前も未来も見えない状態の緑間が真剣に人の顔面を鷲掴みにしてきて抵抗が出来ない。今のこいつは見えてない分手加減ができないし、元から俺の事を金剛石か何かと思っているのかってくらい乱暴にデレる奴だ。ほんとになんでおれ、こいつがすきなんだマジで。
「前々から思っていたのだよ」
「言ってみろ。聞くだけ聞いてやる」
「頼りにはしていない。いいから黙って聞け。…俺は眼が悪いから、この距離だと名前の輪郭がぼんやりわかるくらいだ」
「おう」
「眼鏡を付けなければお前の顔が見えない」
「まあな」
「それはあまりにも不平等なのだよ」
「待て前後の繋がりがわからない。もっとこうパスを意識して会話してくれ。なに突然3Pシュート決めてんの?俺コート上で置き去りなんだけど」
わからないのかこの馬鹿めが 的なムカつく顔をしたので頬を引っ張る。突然の攻撃に反撃を試みるが見えていないから満足にかわせもしないのを笑うと、悔しそうに「こういうところが不平等なのだよ」とソッポを向いた。
「こんなに近くにいるのに俺は名前がどんな顔で笑って、どんな顔でキスをするのかまったく見えない。なのにお前はいつも「邪魔だ」と言って、俺の眼鏡をさっさと取ってキスをする。こんな不平等あっていいはず無い!」
「まさかお前ずっとそれ考えてたのかよ」
「悪いか!二年越しの鬱憤が今日爆発しただけなのだよ!」
「ほっぺた赤いぞ緑間ー」
「うるさい」
「真太郎」
「……ッ、うるさいのだよ。どうせ女々しいと笑うんだろう。忘れろ」
そっぽを向き過ぎて一周してきた我が恋人はそのまま項垂れて拗ねきっている。
結局俺はこいつのこーいうところが好きだからこういう関係に収まっているのである。答えなんてわかりきってた。
「ちょっと待ってろ」と立ち上がると、それだけでしょんぼりとでも擬音がつきそうな雰囲気をまとわせて俺がいるであろう場所を眼で追う。若干ずれているところが面白い。
机の上にそのままの形で置き去りにされていた眼鏡を救出して、持ち主に装着。近い位置で眼が合って、驚いたようにパチパチと瞬きをしていた。
「真太郎」
「な」
なんなのだよ とでも続けたかったようだが強制キャンセル。ちびっこのようにほっぺにちゅーをして「眼鏡付きだと唇はやりにくいからこっちにな」と言えば、「なんだこの初々しい…新鮮な気持ち…やめるのだよ…普通のより心臓に圧迫感が…」と真っ赤になって逃げていた。
「これが嫌だったらコンタクトにしろ」
「嫌だ怖い」
「付けてやるから」
「…それなら、」
どう考えても他人にコンタクト入れられる方が怖いんだが、それをよく理解していない緑間が面白かったので黙っておいた。楽しみだと笑えば、「名前のその顔には碌な思い出が無い」と心底警戒した顔をされたので絶対に手加減せず拘束してでもコンタクトぶっこむ。絶対にだ。
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