宮地先輩の衝撃告白に慄く一年の話
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休憩時間に外の水道でタオルを濡らして帰ってきたら、扉の横でバスケ部で最も物理的意味合いで怖い宮地先輩が誰かに殺害予告をしている。笑いながら言っている辺りが本気で怖い。言ってる事が不条理なのも合わせて怖い。
「…るせ、言い訳すんな潰すぞ。…あー?んな我儘言ったらトラックで轢いたあとに原型無くなるまでパイナップルで殴り続ける。……俺はいいんだよバーカ。…くる?ああ、じゃあ休憩時間あたりで来いよ。途中で抜けねえからな」
別に聞き耳を立てているわけではないが、勝手に耳に入ってくる言葉は辛辣だ。横を通り過ぎたら流れ弾を喰らいそうで動けず、かと言ってこの場に立ちつくしていて万が一盗み聞きを疑われたら轢かれてパイナップルで殴打される。怖い。
「わかった。じゃあまたな」
そうこうしているうちに会話は終わったようで、そのまま体育館に戻って行った。意味もなくその場足踏みを何回か繰り返し、タイミングをずらして後を追う。「真ちゃん俺いますっげえ怖いの見た」「日頃の行いが悪いのだよ」「聞いてもくれないとか!」休憩時間終了の笛が鳴る。聞いてよ!聞いてってば!と追いすがる高尾に「うるさい真面目にやれ」と尤もな言葉でつき放して、緑間は訓練メニューを再開した。
「悪いけど、宮地清志は近くにいるか?」
もうすぐ二回目の休憩時間がくる頃、三年生が高尾を呼びとめた。部活には特別厳しい宮地先輩を訓練中に呼び出す事に一瞬躊躇したが、自分を呼びとめたインテリ系イケメンの顔には見覚えがある。
「あ、生徒会長サン」
「ああ、知っていたのか」
「入学式の時みてましたから」
在校生代表の言葉を一分で終了させた恩人である。それで教師からの文句が出ないのは文句が出せない程に実績のある頭脳をしているかららしい。
その後の校長・理事長のありがたいお言葉がそれに釣られてか五分以内に収まっていた。
生徒会長がわざわざ来たのならきっと重要な用事なのだろう。
こんなに警戒しているのは、一度特に考えず宮地先輩への来客を通したら愛の告白で「テメェ部活中にこんなもん通してんじゃねえよ空気読め引きちぎるぞ!!」と頭突きをされている同輩をみたからだ。同じ轍は踏みたくない。
そういえば先ほど電話で誰かがくるような話をしていたみたいだが、もしかすると生徒会長だったのか。
確かもうすぐ外周から帰ってくるはず、と伝えようとしたところで丁度本人が後ろからやってきた。
「宮地先輩、生徒会長からご指名でーす」
「おう、さっさと散れ散れ」
「ひでえ!」
犬の仔を追うように手の甲で払われ、嘘泣きをしながら緑間の横に戻る。丁度休憩の笛がなった。
「清志、これ忘れてたぞ」
「おお、サンキュ。てーかどうせまたお前んち行くからその時で良いだろ」
「こういうのはさっさと済ませたい」
「神経質なやつ」
バシバシ叩いたり抱きついたりとスキンシップが激しい。よっぽど仲がいいんだなあと無遠慮に指をさすとその手を叩き落とされ「人を指差すんじゃないのだよ」と至極真っ当な注意をうけた。皆が俺に冷たいと拗ねたふりをした瞬間、何かを見た気がする。なんかこう、恐怖現象的な何かを。
「じゃあ名前、また後でな」
「ああ、終わるまで待ってる」
「真ちゃん俺今なんか宮地先輩が生徒会長に抱きついてちゅーしたの見た気がする」
「俺だけがみた幻覚ではなかったのか…」
生徒会長から受け取った何かを持って横を通り過ぎる宮地先輩を咄嗟に引き留め、震える声で尋ねた。
「あの、生徒会長とはどのようなご関係、で…?」
「俺の男」
テレビからよく流れるアイドルの新曲を鼻歌でふんふんうたいながら、ご機嫌で通り過ぎて行く。
「なに忘れたんだよ」
「パンツ」
「お前…」
背後で木村先輩が呆れたように「ノーパンで帰ったのか」と言っているが、そう言う事になる展開と先ほどの発言が脳内で計算されて、嫌でも答えが算出されてしまった。
何これ怖い。宮地先輩怖い。
なにが怖いって、あの超怖い宮地先輩から出る鼻にかかったような甘え声が死ぬほど怖い。その声音の意味を知ってしまった今、ただただ恐怖だった。
沈黙のまま、高尾と緑間は生まれたての仔羊のようにふるえつづけた。
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