黄瀬くんの恋人にツノが生えた話


「一体全体これは何ごとでしょうか」

黄瀬涼太の口をついて出たのは、何故か妙に丁寧な言葉だった。同時に「こういう台詞が似合うのは黒子っちなのに何で俺なんスか」と、この厄介ごとを押し付けたくて仕方なかった。
目の前ではヘラヘラと笑っている好きな人。もとい、恋人がいる。
何で同性と付き合ってんの、お前ならよりどりみどりだろうと言われても可笑しくないけど、イケメンで現役モデルで出来ない事がほとんどなくてたぶん神様に全力で愛されている黄瀬涼太くんの、一番好きでずっと一緒に居たい人はこの人だけなのだから仕方ない。
色気倒しやら何やらでガンガン行くぜと押し切った結果のお付き合いは意外と順調で、名前は名前なりに涼太の事を好きになってくれているらしく、いちゃいちゃらぶらぶ出来るようになった今日この頃だった。それがどうしてこうなった。

「病院行ったんだけどさ、俺どうやら鬼だったらしい」
「ちょっと待ってわけわかんない」

名前の説明曰く、こうだ。
日本中の人が知っての通り、かつて日本には鬼が存在していた。しかし法改正やら人種差別やらがはじまり、住みにくくなった日本の鬼たちは拠点を地獄にうつして日本を発った。その鬼の子孫はもうほとんど鬼因子を持たないが、極稀に、先祖返りを起こしてしまう者もいるらしい。主に思春期に発症し、全日本【鬼の血を守ろうの会】の集会で同じ境遇の人が集まるらしい。
「歴史の授業で習っただろう」と額から昨日まではなかった二本のツノを出して苦笑いをする名前だが、名前の言う事の1から10まで全て涼太にはわからなかった。ただ、悲しいかな。基本的にあまり勉学に通じている方ではないので「もしかして俺がねてる間にやったんスかね…?」と自分を自分で信用できない。


「だからごめん。別れよう」
「………は?」

唐突に名前の隣に和服美女登場。額には名前と同じようにツノが生えている。

「鬼の血を守ろうの会で紹介された俺の婚約者。子孫残さなきゃいけないからさ、ごめん」

「ちょ、どういうことっスか!」

「だって涼太、俺と根本的に違うし。子供だって残せないだろ。仕方ないよな」

ごめんなさいねと女がウフフと笑い、名前の手を引いて歩き出す。

「名前!」
「じゃあな涼太」

名前は振り返らなかった。















これほどまでに酷い寝起きはかつてあっただろうか。いや無い。反語。

「名前にツノが生えて子孫繁栄のためにふられたっス…」
「そっかかわいそうによしよし」

夜中に飛び起きた涼太はそのまま深夜タクシーを呼び出し、一人暮らしの名前の家にアポ無し突撃。普通の人なら激怒しても可笑しくないが、涼太の惚れた名前はそんな事で怒りはしない。ただ自分の眠気を半優先して、名前からみたら訳の分からないことをグスグス鼻を鳴らして泣きながら訴えてくる涼太を抱き枕に寝の体勢になっていた。
うるさいとは言わずに、布団で蓋をしめて喋れないように抱きしめる。
盛大に鼻をかんだような音と、シャツが湿ったような気がしたがそれよりも眠かった。


「ツノがはえたら、キスがしにくそうだから、ツノいらんな…」

いらん、いらん、と繰り返して。今度こそ寝る。

いまだに自分の片想いだと勘違いしている節がある涼太は、たまにわけのわからない理由で名前が涼太をこっぴどく振るというパターンの夢を見て押しかけてくる。


ちゃんと好きだから、そろそろ信用して欲しいものだ。
こういうところも、かわいいから、好きだけど。


そして名前の意識はいつものように夢の中に落ちて行った。


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