黄瀬くんと不幸せな恋人の話
▼▲▼
そんな俺の今好きな人は、さっきから廊下で女の子に囲まれて笑顔で対応しながらタスケテメールを執拗に送って来る現役雑誌モデルの友人・黄瀬涼太くんです。
俺も大概ミーハーである。しかも友達とか、俺は死んだ方がいい。
頃合いをみて助けに行くと女の子から離れた途端にわかりやすく疲れた顔。
「人のメイワク考えて欲しいっス…弁当冷めちゃった」
「自分で逃げればいいだろ」
「ファンサービスも必要なんっスもん」
それに名前っち、助けにきてくれるっしょ?
何だその人を信じ切った眼は。俺は死んだ方がいい。
そんな生温い地獄のような俺の恋はある日突然壊されたわけだ。
部活のない放課後、夕焼けが綺麗だとか、そんな感じのどうでもいい会話の途中で突然「俺、名前っちの事、好きなんス」という告白。
既視感。
結論。
ああ、また罰ゲームか何かか。
「俺も好きだぜー。友達だもんな」
今日も夕焼けは綺麗だし、今日も黄瀬は綺麗だ。綺麗なものはみんな残酷なのが道理なのだから、夕焼けは俺を裏切るし黄瀬は俺を嗤うんだろう。
はじめから覚悟して、だからもう傷つかないし。「本当に好きなんスよ」と泣きそうな顔で手を握ってくる黄瀬はやっぱり愛しかった。惚れた弱みだから仕方ない。
手を握り返して、もう一度繰り返す。
「俺も、好きだよ」
感極まったようにポロポロ泣きだす黄瀬は、俳優に転向していいくらいの演技力だった。
生物として欠陥過多なこんな難儀な性癖を、かつて俺は当時の好きな人、かっこ友達かっことじ、に涙ながらに告白した事がある。
数日後、こんな夕焼けの日に同じように告白された、こたえた次の日、黒板に写真と落書きがいっぱいだった。
昨日まで友達だったはずのそいつも、みんなも、俺を見て楽しそうに笑っていた。世界は異端者に厳しい。何か話かけてくる好きだった人の顔はモザイクがかったように見えなくなり、音声はノイズで何も聞こえなくなった。
俺は可笑しいのだから、愛されるわけがない。誰かを好きになっても、好きな人が俺の事を好きになってくれるなんてありえない。そう教わって、俺は登校拒否に陥り親の意向で転校した。俺は死んだ方がいい。
「俺、ほんとに、名前っちの事大好きっスから…!一緒にいてくださいっス、あと、俺の事いやになったらそこんとこちゃんと言ってくれたらなおすし、それと、あとえっとぉ…!言いたい事たくさんあったのに全部吹っ飛んだあとで書面で提出するっスー!」
うわわわんと子供泣きする黄瀬の頬に、無意識で手が伸びていた。視界に入った自分の手に驚く。身体が俺の意志とは関係なく動くのはなんでだろうか。
「黄瀬は、世界でいっとうきれいだな」
こんなきれいなものが一瞬でも自分のものになるなら、騙されても辛くないと思った。
黄瀬の頬が赤いのは夕日のせいだし、重ねた唇がふるえていたのは寒かったからだろう。別に死ぬわけじゃないし、黄瀬が種明かしをする日には、今度はうまく笑って道化役をこなしてみせる。
俺は幸せになれない。
▲▼▲