黄瀬くんの無神経な恋人の話


最近の不幸は全て名前のせいなのだと、黄瀬は恨みがましくぶちぶちと文句を繰り返していた。

合宿中にパックで顔面覆って部屋の中を歩いていたら怪奇現象と間違われて思いっきり早川先輩に張り倒されたのは全部名前のせい。

お気に入りのパックが販売終了になったのも、潤う唇で女子力あがったのも、バッシュの底が剥がれて思いっきりこけたのも、確認不足だと笠松先輩に怒られたのも、なんかもう空が青いのも蜜柑が酸っぱいのも全部名前のせい。


事の起こりは二週前。二週間たったのにいまだ根に持っているあたりしつこいが、それだけショックだったので仕方ない。これも名前が悪い。
いちゃいちゃしていた筈なのに、ロマンチックだった筈なのに、キスした直後に「やっぱり女の子みたいに唇ぷにぷにしてないなあ」と暴言吐いた名前のせいで顔面のみならず唇にまでパックをするようになった昨今の事情である。
直後に「こっちの台詞っスよ!」と頭突きしてその日は帰ったけど、実際の所ショック死するかと思ったくらいだった。家に帰ってちょっと泣いたのは名前のせいだ。

「名前っちのばかあほまぬけ」
「はいはい」
「おたんこなす」
「はいはい」
「おたんこなすび」
「はいはい」
「おたんこなすびーふん」
「はいはい」
「おたんこなすびーふんのミラノ風ドリア」
「腹減ってるんだろ」
「肉食べたい」

名前っちのろくでなし。と、最後に罵って無言になる。お腹は減ったし言ってもいい悪口はもう思いつかないし、座り込んでいる名前に正面からコアラのように抱き着いたまま自分の唇を触る。なんとなく、前よりはぷにぷにしている気がする。

「ちゅーしていいんスよ」
「では遠慮なく」

ちゅっちゅとバードキスを繰り返して、終わった。

え、コメントは?なにその駄々っ子を宥めるためのちゅーは?もっとこう、色っぽい雰囲気になってもよろしいのですが?何普通にテレビのチャンネル替えだしてるんだこの男は。

「…俺、頑張ったんスけど。唇のケア…」
「なにそれ女子かよ」

「名前っちなんて禿げて太れ」
「な?!」


女子に見向きもされない外見になってしまえ。無神経め。


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