月のある夜


 内面年上で外見年下の友人に、ことあるごとに「かわいいね良い子だねさすが俺の人間!」と持ち上げられる割には、名前は恋人が出来ない。いや、出来るのだが長続きしないのだ。高校一年で初めて出来た彼女が一番長くて三ヶ月もった。その後は最短3日である。
 仕事はちゃんとしている。性格も悪くない方だと思う。友人と親に甘やかされて生きてきた自覚はあるので、少し常識は欠けているかもしれない……ここか? これのせいか?

「お腹すいたお腹すいた」と来たのに、ただ肩口を甘噛みしているだけの友人を放置し、斜めになった無理な姿勢でメッセージを送り続ける。

「俺がここにいるんですけど」
「んー」
「ちょっと、名前くん。それは俺より大切なことかな?」
「んー」
「最近忘れられがちだけど俺は吸血鬼なのでスマホのひとつふたつ指先だけで破壊できる」
「ごめんごめん!! 聞き流してた! なに? お話しする?」

 いつものだるだると伸びた袖から、爪の長い指先がにゅっと生えてきたことに驚いてスマホを遠くへ投げた。

「もっと真剣に俺と向き合った方が良いよ。俺は拗ねたら怖いぞ」
「ごめんって、ね?」
「仕事の話だったら邪魔しないように帰るよ」
「いや、えっと、うーん」
「なに」
「恋人が出来まして」
「いつ」
「一ヶ月前に」
「あーもう!」

 人間の上半身だけが高速で絨毯の上を転がる。怪奇現象だなあと見下ろすしかない。拗ねたら怖いを物理的にやってくるので面白い。

「なんですぐ言わないかなぁ!」
「最近会わなかったし」
「お化け屋敷が軌道に乗っちゃったせいで!」
「おめでとう」
「ありがとう!」

 明日は向こうの仕事帰りに合わせてご飯を食べに行くといえば、深々とため息をついて「楽しんでおいでよ」と袖を振られた。

「でもこれは罰!」
「いっだぁ?!」

 肩口から大きめのフォントで『がっぶう!』って擬音が飛び出た気がする!

「痛くないようにできるのになんで!?」
「知らん!」

少しだけ温くなった舌で穴の開いた傷口を舐めて、トオルくんはにやにや笑う。吸血鬼って少し気まぐれな人が多い。でかい絆創膏、在庫あったかなあ……。


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