ザングース は にげだした!


柵の前で屈んで自分を見てくる無遠慮な視線に、ザングースは器用に舌打ちをした。無遠慮だが悪気のない、子供のような眼をした男がいる。

「君はどうしてそこから動かないんだい?」
『主人が俺を置いてどこかへ行った。約束をやぶった、ゆるせねえ』

感情の灯らない眼が作られたような悲しさを演出して揺らぐ。目の前の人間は、人間になりそこなった何かのようだ。
ザングースの一番よく知っている人間は、笑ったりはしゃいだりいつも忙しなかった。においのしない怪しい男は、なぜ自分と会話できているのだろうか。それもまた、どうでもいいことなので気にしない。今日も主人が来なかった。

「君の主人を探しに行こうか」
『ここで待ってろって言われた』
「待ってても来なかったんだろう?」

うるせえバカ。

うつむいたザングースに、男は手を差し伸べる。




「僕はN。君の主人に文句を言いに行こう?」


それはとても、魅力的なお誘いだった。


ザングースはこの子供のような眼をした男を利用することに決めた。良い子に待っていても迎えに来なかった主人が悪いのだ。俺だって本当はこんなことしたくなかった。だけど、どうしても、またもう一度会いたかった。その為なら悪い子になってもいいと思えた。何回も何回も褒められた「ザングは良い子だね!大好きだよ!」というべたべたに甘い褒め言葉と、自分を褒めてくれた男の手を裏切っても、全部どうでもいいから、もう一度会いたかった。もう一度。


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