ザングース は はしりさった!
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主人と住んでいた家は? 空家になっていた。
主人の仕事場? いなかった。
主人が言っていた出張先へは? どこかにいるかもしれない。
Nはザングースの好きなようにさせていたし、そうでなければザングースは一匹で好きなように探し回っていただろう。干渉してこない距離はとてもやりやすかったが、ザングースはNの眼が嫌いだった。
全てを理解しているとでも言いたげな、何もかも諦めている眼。その眼が主人と同じ色をしていたのが、一層不愉快だった。その色の眼はいつだって、ザングースの前でキラキラ輝き、毎日毎晩飽きることなく楽しい幸せだ大好きだと雄弁に語っていた。そうであるべきだ。そうでなければいけない。だからザングースは、Nの眼を見ない。
出張先と言っていたカロス地方についたとき、別件での用事があると言ったNについていく義理はなかったので一旦別れた。ザングースは賢い。時間を指定されれば、待ち合わせの場所にもどるのも容易いのだ。Nはやっぱり何も言わなかった。
知らない街で、主人を探す。
綺麗な毛皮に黒いゆったりとした首輪はトレーナーがいるポケモンの証拠。「お使い?おりこうね」と知らない人間が声をかける。そう、俺はお利口なんだ。主人はいない。においもしない。
そしてザングースはNに引き続き二人目の妙な人間を見つけた。
「その眼には覚えがある」バカみたいにでかい男が頭の上から勝手に独り言をいう。話しかけているわけではないんだろうから、反応はしない。
「うしなったものに囚われ過ぎて、何も見えていないのだろう」
薄く笑った男の顔に、苛立った。
人間じゃなかったら切り刻んでやったところだ。悠々と通り過ぎていく巨体の影をゲシゲシと踏みつけて、背中を睨みつけた。
実際のところザングースも同じ事を考えていた。あの薄汚れた男と自分は嫌に似通っている。同族嫌悪。おぞましいものをみた気がする。通り過ぎる直前に小さくつぶやかれた「何を犠牲にしても、」という言葉に心が揺れた。そうだな。もし、いつか、何か大切なものをなくしてしまったとしたら、[何を犠牲にしても取り返したい]と思うだろう。どんなものでも、他人も、自分でさえ。取り戻すことができたなら。
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